本物との対話

個を表現する時代は終わった。これからは、未来に継承されるべき「本物」を追求する時代だ――。日本料理がいかに多彩で精神性豊かなものであるかを伝えるために、山本征治氏は今日も全霊を注ぐ。

Photo Masahiro God  Text Rie Nakajima

個を表現する時代は終わった。これからは、未来に継承されるべき「本物」を追求する時代だ――。日本料理がいかに多彩で精神性豊かなものであるかを伝えるために、山本征治氏は今日も全霊を注ぐ。

ちなみに、かんぴょうには通常の砂糖ではなく、カナダが誇る本物、メープルシロップを使用してコクを出した。そこにイタリアの本物、バルサミコ酢で酸味を加え、醤油は200余年の伝統を持つ日本の本物、丸中醤油を使用している。

器は3色で彩色を施した陶器、三彩の人間国宝・加藤卓男氏が、ペルシャ伝統のラスター彩の技術を復刻させたもので、金を使わずして神々しい黄金の光を放つ本物だ。本物尽くしの皿の中で、牛肉の油脂や酸味、コクのある甘みが効いたかんぴょうが、花山椒の雌花が持つ柔らかな辛みを引き立てる。いつまでも食べていたくなる、後を引く旨さだ。

「個人の料理ならば、『あのシェフの料理はもう食べたね』という経験で終わってしまいます。でも本物の日本料理は、未来に受け継がれるべき永遠のもの。海や山などの日本のテロワールと精神性がある限り、終わることはないのです」と語る山本氏。

「文化庁公布、文化芸術基本法の第十二条の中に、一昨年初めて食文化が追加されました。料理人の誰かを担ぐのではなく、その人が担いでいる日本料理が、世界にアピールできるものになることが理想。そして、じゃあ、本物の日本料理はどこで見つかるのかと聞かれた時に、この店だ、と言われる場所でありたいのです」

本物のフロントラインに立つ。この気概を持った料理人がいる限り、新時代の日本料理はさらに進化したものになる。

龍吟 山本征治氏

山本征治 やまもと・せいじ
1970年香川県生まれ。四国調理師専門学校を卒業後、14年間の修業時代を経て2003年、六本木に「龍吟」をオープン。2012年に香港で、2014年には台北でも「龍吟」をプロデュースする。「世界のシェフ100人」で5年連続世界トップ10入りを果たすなど、国内外で高い評価を得る。

●龍吟
東京都千代田区有楽町1-1-2
東京ミッドタウン日比谷7F
TEL 03-6630-0007(予約受付時間 12:00〜17:00)
nihonryori-ryugin.com

※『Nile’s NILE』2019年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。