「昭和は日本料理の基礎が確立された“アナログ”な時代。料亭があり、花柳界が栄え、お金をたくさん使う旦那衆をもてなすために料理とお酒がありました。日本料理が半分、お酒の肴だった時代です。それが平成になり、デジタル化やSNSの発展により、老舗の料亭の主人などでなくても個人の発信力によってオリジナリティーが評価される時代になりました。他のジャンルの料理人とも交流することで、ジャンルを超えた“俺料理”といったものが、注目されるようになったのです」
山本征治氏も、平成に注目されたスターシェフの一人だ。だが当人は、「もう山本がどうの、なんて言っている場合ではない」と言う。
「料理人ができるのはしょせん、人間の技。本当に尊いのは食材です。大根から漬物を作ることはできても、大根そのものをゼロから作り出すことは人間にはできません。日本の土地や気候があって、そこに生命が宿り、初めて生み出される素材こそが貴重。そして日本の自然環境のすばらしさを、日本独自の精神性とともに表現するのが日本料理なのです」
今回、選んだ食材は花山椒。それも一般的に流通している雄花ではなく、より優しく繊細な味わいを持つ雌花だ。
「花山椒って、お肉に添えられることが多いでしょう。肉の脂肪分やたんぱく質の焦げた香りが花山椒のぴりっとした風味によく合うのです。今回は花山椒を主役にするため、炊いたかんぴょうをお肉と一緒に焼いて肉の油脂をまとわせ、肉を取り除いたかんぴょうを合わせました」