口中に広がる「涼感」

スイカを前菜に仕立てた神田裕行氏は言う。「前菜には華やかさと高揚感が求められます。その中でフルーツはいい役割を演じてくれる」と。かぶりついて食すのとは別次元の旨さが引き出された。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

スイカを前菜に仕立てた神田裕行氏は言う。「前菜には華やかさと高揚感が求められます。その中でフルーツはいい役割を演じてくれる」と。かぶりついて食すのとは別次元の旨さが引き出された。

西瓜の料理、日本料理 かんだ(元麻布 かんだ) 神田裕行氏
スイカの果肉とスイカゼリー、胡麻ミルク、出汁ゼリーから生まれる「シャリッ、とろり、シャリッ、とろり……」の食感が楽しい一品。赤、白、黄金色の三層に重なる色合いが見た目にも夏らしい印象を与えている。

神田氏が合わせた食材は、胡麻豆腐だ。それも、胡麻を一晩漬けてギューッと絞り、出汁(だし)と合わせて白濁した豆乳のようなものを作り、吉野葛で固めたという、手の込んだクリーミーなもの。「アーモンドミルクならぬ胡麻ミルク」と氏が表現するそれを、スイカのジュースを煮詰めたゼリーに混ぜ合わせたスイカの小片の上にのせる。
「それだけでもおいしかった」と言うが、もう一工夫。「日本料理のお出汁の旨みを足したい」と、さらに鰹(かつお)と昆布の一番出汁のゼリーをのせて完成させた。

ガラスの器に盛られたこのスイカ料理は、スイカの赤と胡麻ミルクの白、出汁ゼリーの黄金色が三層を成し、とてもきれい。
スプーンですくって口に入れると、スイカのシャリッとした歯触りと、胡麻豆腐のとろりとやさしい味わい、出汁のあっさりした風味が溶け合い、夏の涼感が広がる。

「暑い中をお越しくださったお客様に、クーラーのきいたお店で、シャンパンとともに召し上がっていただきたい」
その言葉どおり、前菜の最初の一口にふさわしい料理だ。

「今後はスイカに限らず、果物を前菜のお料理として積極的に使っていきたいですね。今夏は、桃のお料理を出しました。とくにコロナ禍の今、免疫力アップや酵素を摂取することの重要性が再認識されています。食前に果物から酵素を取り入れると、健康にいいし、前菜がより華やかに仕立てられます」
神田氏は今、果物の可能性を、デザートの枠を超えて広げようとしている。

日本料理かんだ(元麻布 かんだ)神田裕行氏

神田裕行 かんだ・ひろゆき
1963年、徳島県生まれ。大阪の日本料理店で4年半の修業後、86年にパリの板前割烹「TOMO」の料理長として渡仏。91年に帰国し、小山裕久氏が料理長を務める徳島の料亭「青柳」へ。赤坂の日本料理「basara」の料理長を務めるなど青柳グループの東京進出に尽力。2004年、東京・元麻布に日本料理店「かんだ」をオープン。07年から『ミシュランガイド東京』で三つ星の評価を得ている。

●日本料理かんだ
東京都港区愛宕1-1-1
虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー1階
TEL 03-5786-0150
www.nihonryori-kanda.com
※ 2022年、元麻布から愛宕へ移転し、名称が変わりました

※『Nile’s NILE』2021年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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