繊細さとダイナミズムの調和

国産食材への積極的なアプローチや、日本料理の技術の導入に取り組んできた「ランベリー」岸本直人氏。しかし最近は、「改めてフランス料理の技術を追求したくなった」というように心境が変わったという。2017年に、青山から広尾に店も移転。新たな心持ちで料理に取り組む。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

国産食材への積極的なアプローチや、日本料理の技術の導入に取り組んできた「ランベリー」岸本直人氏。しかし最近は、「改めてフランス料理の技術を追求したくなった」というように心境が変わったという。2017年に、青山から広尾に店も移転。新たな心持ちで料理に取り組む。

ランベリー・鱈の白子を主に、ホタテのムース、香り高い海苔などをパイ包み
鱈の白子を主に、ホタテのムース、香り高い海苔などをパイ包みに。冷たいウニをのせ、ブールブランソースを流す。文句なしにおいしい組み合わせ。熱いパイと冷たいウニの温度差も印象的。

フレンチの独自の豊かな世界を築いていく

「ランベリー」の岸本直人氏は、巨匠 坂井宏行氏(ラ・ロシェル)のもとで修業、日本の懐石の手法を取り入れたフランス料理を習得し、フランス現地でも経験を重ねた。新しい表現を目指し、早い段階から「日本で料理するとは」という課題に向き合ってきた。

産地に赴き生産者と密にコミュニケーションを重ねる他、日本の食材の繊細さを生かすべく、炭火や包丁技術といった和の技法を本格的に導入。岸本氏がこうした意識で行動を始めたのは、今から18年も前のことだ。

そんな岸本氏は、2017年に南青山から広尾に店を移転。その頃から、「フランス料理に、より強く意識が向くようになった」と話す。

「日本のすばらしい食材を出発点に料理を考える。日本の四季を皿の上で表現する。今も昔も、この二つは自分の軸にあります。ただ、これをベースにどんな料理を作るか、という点が変わりました」

一時期はこの考えのもと、フランス料理の技術を離れてでも、食材をピュアに表現する方向を追求していた。しかし、「フランス料理には、フランス料理のおいしさがある。和食には和食のよさがある。それを知ったからこそ、今はフランス料理の、伝統的で豊かな世界に落ち着きを感じる」という。大きな変化だが、自分としては自然な流れと感じている。

「日本にフォーカスした時期があるからこそ、自分の中に『この時期は、この生産者さんのこの食材』という“食材カレンダー”ができた」
それを、フランス料理の厚みのある技術体系で生かしていく。

「今は料理が楽しくてしょうがないですね。前が楽しくなかったかというと、そんなこともないのですが(笑)。ただ、コンセプトに合わせようという意識が強かったかもしれません。今は本当に、味第一。どうしたらもっとおいしくなるか、細部まで詰めて試行錯誤する毎日です」

新しい境地に達した岸本氏。幅広い経験の上に、独自の豊かな世界を築いていく。今までにない、現代ならではの「フレンチのベテラン料理人」の在り方を示してくれるに違いない。

ランベリー 岸本直人氏

岸本直人
1966年東京都生まれ。「ラ・ロシェル」などで修業後、渡仏。ロワールやパリで研鑽を重ねて帰国。銀座「オストラル」シェフを経て2006年「ランベリー」を青山にオープン。2017年に広尾に移転。

●ランベリー
東京都港区西麻布3-13-10-2F
www.lembellir.tokyo
ランベリーは、「naoto.K」に名称変更し、千代田区神田錦町2-1-1へ移転しました

※『Nile’s NILE』2019年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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