繊細さとダイナミズムの調和

国産食材への積極的なアプローチや、日本料理の技術の導入に取り組んできた「ランベリー」岸本直人氏。しかし最近は、「改めてフランス料理の技術を追求したくなった」というように心境が変わったという。2017年に、青山から広尾に店も移転。新たな心持ちで料理に取り組む。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

国産食材への積極的なアプローチや、日本料理の技術の導入に取り組んできた「ランベリー」岸本直人氏。しかし最近は、「改めてフランス料理の技術を追求したくなった」というように心境が変わったという。2017年に、青山から広尾に店も移転。新たな心持ちで料理に取り組む。

冬の食材を思いきりフランス料理らしく

今回紹介する料理(次ページ)は、鱈の白子と有明海の香味干しの海苔(平らにせずに乾燥・焙煎した海苔)をパイ包み焼きにし、ウニをのせ、シブレット入りのブールブランソースを合わせた品です。

トロトロの白子と香り豊かな海苔が、バターの香りも香ばしいパイ生地に包まれ、冷たいウニがのる。「これぞ冬のごちそう!」という組み合わせです。酸味とコクが一体化した、定番だけれども確実においしいブールブランソースもポイントです。

フランス料理らしい存在感が魅力の品ではありますが、コースの中の一品ですから、すっきりと食べられるような工夫をしています。

パイの中は、白子の他にホタテの軽いムース、レモンビネガーであえたにんじんも入れて食べやすく。そしてパイ生地はできるだけ薄く。あまり薄いと、焼いている間に白子が膨張するのに耐えきれず破れてしまうので、バランスを見極めます。

私の料理のモットーは、「日本にはすばらしい食材がある。その食材を出発点に料理を考える」。「日本の四季を皿の上に表現する」。

ただしこの1年は、それを「フランス料理のテクニックで実現する」という意識が強くなりました。そんな私の今の心情がよく表れた料理だと思います。

日本料理の加熱、フランス料理の加熱

私はフランス料理の料理人ですが、一時期、日本料理の技術に傾倒したことがあります。包丁技、炭火の加熱、引き算の美学……。今でこそ炭火を使うフランス料理店は少なくありませんが、私が和食の料理人さんに炭火を学んだ当時(今から15年ほど前になります)では、珍しかったように覚えています。

炭火は、他の熱源にはない高温で食材を熱し、乾いた香ばしさを作り出すことが可能。その力強くシンプルな加熱は魅力的で、店で提供する多くの料理に取り入れてきました。

ただ最近は、改めて「フランス料理には、フランス料理のおいしさを表現するのに最適な加熱方法がある」ということを実感しています。

今も炭火は使いますが、やはり肉や魚をフライパンでアロゼ(フライパンに素材とバターを入れて加熱し、溶けて泡立つバターをスプーンですくって繰り返し食材にかける技法)しながら加熱すると、バターの水分と香りを吸いながら食材がふくよかに仕上がる。

あるいは、300℃のごく高温に熱したオーブンで食材を四方八方から一気に熱し、その後休ませたり熱したりしながら仕上げると、香りがぐっと引き立つ。こうしたことが、フランス料理特有のおいしさになるのかな、と思っています。

最近よく飲むのは日本酒

「日本の食材」は私が長く取り組んできたテーマです。国産の食材に真正面から取り組むようになったのは、私が初めてシェフになった2001年の頃。それまではフランス産の食材を使うことが誇りで、国産の食材を強く意識することはなかったのですが、ヨーロッパでBSEが発生し、フランスからの仔羊や仔牛の輸入がストップ。

まず築地に行き、国産の食材に目を向け始めました。そんな事情から、地方に赴いて生産者さんのもとを訪ねるようになり、次第に国産食材に引き込まれるようになったのです。

「ランベリー」岸本直人氏、最近よく飲む日本酒

それだけ地方に多く赴きながらも、なぜか日本酒に興味を示すことなく過ごしてきたのですが、ここのところ、プライベートの時間で楽しむお酒には、断然日本酒を選ぶようになりました(笑)。

飲んで衝撃を受けたのは、有名な銘柄ではありますが、「十四代」「磯自慢」「黒龍」、そして「〆張鶴(しめはりつる)」も好きです。まだまだ自分の好みを開拓中。いろいろな日本酒を飲んで楽しんでいるところです。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。