世界のベストレストラン50を読み解く

21年目を迎える「世界のべストレストラン50」。食のアカデミー賞とも称される、華やかなアワードは、世界のガストロノミー界の潮流を表しており、そのランキングからトレンドが見えてくる。さらに昨今はランキングにとどまらず、ダイバーシティー、地方創生、持続可能性といったSDG’sな側面も強調されてきている。そうした意識を持って俯瞰してみると新たな食の世界地図が見えてくる。

Text Hiroko Komatsu

21年目を迎える「世界のべストレストラン50」。食のアカデミー賞とも称される、華やかなアワードは、世界のガストロノミー界の潮流を表しており、そのランキングからトレンドが見えてくる。さらに昨今はランキングにとどまらず、ダイバーシティー、地方創生、持続可能性といったSDG’sな側面も強調されてきている。そうした意識を持って俯瞰してみると新たな食の世界地図が見えてくる。

「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリスシェフ
「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリスシェフ。まず興味を持ち、感動し、印象に残る料理を供する。キッチンには各国からのシェフのサインがたくさんあり、日本のシェフも多く見られる。

世界のガストロノミーの潮流

23年のアワードの中でも、圧倒的な強さを見せているのがスペインだ。2位「ディスフルタール」(バルセロナ)、3位「 ディヴェルソ」(マドリッド)、4位「アサドール エチェバリ」(ビルバオ近郊)と、上位を独占している。このほかにも3店舗、全6店の入賞を果たしているのは世界最高だ。しかもスペイン各地からの入賞は、まさにその層の厚さを物語る。

さらにベストオブベスト(一度トップになったレストランは殿堂入りし、ランク外になる)まで含め、「エルブリ」「エルセジュール・カンロカ」と、枚挙にいとまがない。

また、ここ数年評価が高いのがイタリアだ。7位入賞の「リド 84」、16位「レアレ」、34位「ウリアッシ」、41位「カランドレ」、42位「ピアッツァ・ドゥオーモ」と5店舗と、これはスペインに次ぐ店舗数だ。イタリアの入賞店は、北から南まで、また山から海まで各地に広がっており、地方料理の集大成である、イタリアらしい評価のされ方と言える。

一方、南米すべてからは12店舗がランクイン。今回1位に輝いた「セントラル」を有するペルーは入賞4店舗。メキシコは3店舗、ブラジル、チリ、コロンボ、アルゼンチンと、広範囲にデスティネーションレストランが広がっている。実際にこれらの国では、ガストロノミーで観光客を呼び、経済力をつけるというような、牽引力のあるシェフを輩出してきた背景があり、それが実った証といえるだろう。

社会的貢献が大きく評価される特別賞

次に、個人の特別賞を見ていこう。「アイコンアワード」と評される功労賞を今年受賞したのは、モラキュラ料理以来のイノベーティブの立役者とも評される「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリスシェフだ。多くの日本人が修業した店でもあるが、後進の指導に熱心で、30年以上も世界のガストロノミーを牽引してきたシェフとして誠にふさわしい受賞であるといえる。

「ベスト フィメールシェフ」を受賞したのは、メキシコの「ロゼッタ」のエレーナ・レイガダスシェフ。NY、イタリア、ロンドンなどで多彩な経験を積んだのち、古い書物などに残るメキシコ料理の歴史をひも解き、古来の発酵技術を駆使したパンを焼くことから、オリジナリティーに富んだ料理が始まった。メキシコもベスト50において常に評価が高いが、現在、最も注目されるメキシコのレストランの一つだ。

「ベストペストリーシェフ」には、ランクイン外から、エクアドルの首都キトにある「ニューマ」のピア・サラザールシェフが受賞。すでに「ラテンアメリカベストペストリーシェフ2022」を受賞しており、その勢いに世界が注目した。果物や野菜による実験的な料理が高く評価された。

「ハイエストクライマー賞」を受賞したのは、8位の「アトミックス」。去年の33位からのジャンプアップだ。ニューヨークで、14席のこぢんまりとした店内で、シェフとマダムの二人三脚によるもてなし、イノベーティブな韓国料理が、多くのファンを虜にしている。

こうして、ランキングを読み解いてみると、「世界のベストレントラン50」には、単なるレストランランキングとしての側面だけでなく、地域創生、ダイバーシティー、持続可能性への影響力も非常に大きいことがよくわかる。そうしたことを知ってランキングを見てみると、デスティネーションレストランマップ以上の楽しみが得られはずだ。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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