能登の素晴らしさを料理に

池端隼也氏が石川県輪島に“故郷回帰”して約10年。2014年にオープンしたラトリエ・ドゥ・ノトは、地元に愛され、また外に向って“能登フレンチ”を発信する店として、着実に歩んできた。最大の魅力は「能登の豊かな自然の恵みを丸ごと味わえる」ことである。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

池端隼也氏が石川県輪島に“故郷回帰”して約10年。2014年にオープンしたラトリエ・ドゥ・ノトは、地元に愛され、また外に向って“能登フレンチ”を発信する店として、着実に歩んできた。最大の魅力は「能登の豊かな自然の恵みを丸ごと味わえる」ことである。

ラトリエ・ドゥ・ノト

建物は元塗師の作業場

「場所がわからない」って電話がきて、お迎えに行くことが多いんです。その回数が多くてちょっとしんどくなってきましたね(笑)。
 
場所がわかりにくいというよりは、建物が町並みに馴染み過ぎていることが、「店に気づかずに通り過ぎてしまう」理由のような気がしています。
 
店の建物はもともと、輪島の主たる塗師屋。だから外観は、黒漆・朱漆を彷彿とさせる、艶のある味わいに仕上げました。内観は一転して、レトロモダンな洋の空間に。格子の引き戸の隙間から差し込む柔らかな光に包まれ、店の奥の蔵の扉が渋くて、いいでしょ?
 
設計は、2007年に能登半島地震が起きた時にこの建物を修復した方にお願いしました。白藤酒造店さんの全壊した酒蔵を建て直したのも、能登演劇堂を設計したのもその方。古い建物をとても大切に考えてくださる。ですから信頼して、導線だけを伝え、あとは昔からあったようにしてくださいとお任せしたのです。この物件は、中庭をひと目見て気に入りました!
 
ここを囲む客室でお客様が食事を楽しむ、その温かなにぎわいの風景がリアルに見えたのです。だからこの中庭は今も変わらずお気に入り。ときどき縁側に腰かけ、店というお城を愛おしんでいます。

能登の食材は宝物

能登には、新鮮でおいしい食材がたくさんあります。それも素晴らしい生産者さんが近くにいてくれるお陰です。
 
例えば、海女さんが海藻を獲ってきてくれたり、農家さんが「こんな野菜を作ってみたから食べてみて」とわざわざお店まで持ってきてくれたりするのです。都会で料理をしていると感じることができない絆が生まれます。
 
中には使ったことのない食材もあって、いろいろと刺激をもらっています! 今はもう、店で使う食材のほとんどが能登産です。

ラトリエ・ドゥ・ノト。能登の食材

また、すぐ近くには里山があるので、春には山菜、秋には天然きのこなどをスタッフ総出で採りに行きます。こうした能登の自然の中で、料理を作れるのは本当に料理人として幸せです。

フレンチから能登フレンチへ

オープン当初、フランス帰りのシェフの店は、「高いお金を出してるのに、全然おなかいっぱいにならない」みたいなうわさ話が広がり、回り回って僕の耳にも届きました。これはまずいと思いましたね。まず地元の方に愛されないと。
 
それから価格を抑え、箸を出すなど、わかりやすいフランス料理を心がけました。また食材も、始めはフォアグラやオマール海老などを取り寄せていましたが、地元を知れば知るほど、能登の食材に傾倒しました。

ラトリエ・ドゥ・ノト

最近も例えば藻屑蟹という、手にいっぱい毛のついた沢蟹で作るビスクが旨いと発見したんです。言ってみれば“能登フレンチ”の世界ですね。
 
ちなみにこのサインは、能登出身の漫画家、永井豪さんのもの。来店くださった時に壁に書いてもらいました!

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。