千古不易の照葉樹林 -綾の森-

縄文の昔、西南日本にはうっそうとした照葉樹林が広がっていた。文明の進展とともに暮らしに必要な材木を得るために木々が伐採され、あるいは焼き払われた後に水田がつくられ、しだいに姿を消したが、宮崎県・綾町にはその「失われた照葉樹林」が広大な規模で残っている。この「奇跡」の裏で続けられてきた地域づくりの歩みをたどりながら、人々とともに生きる照葉樹林の森を探索した。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

縄文の昔、西南日本にはうっそうとした照葉樹林が広がっていた。文明の進展とともに暮らしに必要な材木を得るために木々が伐採され、あるいは焼き払われた後に水田がつくられ、しだいに姿を消したが、宮崎県・綾町にはその「失われた照葉樹林」が広大な規模で残っている。この「奇跡」の裏で続けられてきた地域づくりの歩みをたどりながら、人々とともに生きる照葉樹林の森を探索した。

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    (左)木に着生しているノキシノブ。名は家の軒下でも耐え忍ぶことに由来。(中)照葉樹林の代表樹・タブノキ。この巨木は樹齢350~400年だという。(右)イチイガシとイスノキが上へ上へと一緒に大きくなり、約30mの高木に。
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    (左)ボタンヅル。名は葉の様子がボタンに似ていて、つる性であることに由来。(中)岩に数種類ものコケ類が植生している。同じ種類のコケに見えるが実は違う。(右)その名の通り岩に生えているイワタバコ。美しいピンクの花を咲かせる。
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    (左)つる性常緑のハスノハカズラは、秋にかわいらしい赤い実を付ける。(中)高さ30m、胸高幹周り3.72mのイチイガシ。樹齢350~400年の巨木だ。(右)南方系の常緑広葉樹のミサオノキ。名は常緑で操が固いことに由来。
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極相の森に分け入る
いよいよクライマックス。極相の森に分け入った。樹齢数百年のイチイガシやタブノキ、コジイなどの巨木がうっそうと生い茂る森は、まるで原始の世界だ。道がなくても歩けること、爽やかなことが極相の森の特徴だという。光の量によって植物がすみ分けている様、岩を抱きながら、他の木をのみ込みながら成長する木々のたくましさ、イチイガシとイスノキが高さを競い合うように伸びる姿、林間を駆け抜ける鹿、雨で増水した渓流の水しぶき……さまざまな森の営みを目の当たりにし、何度驚嘆の声をあげたか分からない。

最後に、“トロッコ時代”の参道を通って、川中神社を参拝した。境内の樹齢100年以上のウメにクモランがついていた。鎮守の森は杉林と化していたが、自然林も残る。「巨木林の中にモミが点々と残っているのは、自然林の本当の姿」だそうだ。

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    (左)綾の森から流れ出る水は美しくおいしい。しかし雨の後で川の水が濁っていた。(中)マメ科のミヤマトベラは常緑で矮性であることが珍しい。実はこれから黒く熟す。(右)木に着生するカタヒバ。ほかにマメヅタ、アオガネシダも木に。
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    (左)約20年前まで森の中で暮らしていた夫婦が使っていた炭焼き窯の跡。(中)生存競争の激しい照葉樹林では、巨木が低木をのみ込んで共生することもある。(右)樹齢約100年の梅に着生するクモラン。人の目の高さにあるのは珍しい。
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    (左)谷間にすだれ状の気根を垂らすウドカズラ。実は赤く色づき、熟すと黒くなる。(中)雨が降った後、キノコたちが一気に顔を出した。(右)落葉つる性のシマサルナシの実はキウイそのもの。宮崎県の沿岸部に多い。
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※『Nile’s NILE』2024年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。