雄大、繊細、革新の調和

南青山の一角に2019年の12月にオープンした「慈華」。悠久の歴史の中で磨かれ、伝承されてきた中国の料理文化。それと、日本の風土や日本人の感性の融合をテーマとする。10年にわたり自店を営んできた田村氏が、場所と店名を変えて新ステージで活躍。充実の時間を提供する。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

南青山の一角に2019年の12月にオープンした「慈華」。悠久の歴史の中で磨かれ、伝承されてきた中国の料理文化。それと、日本の風土や日本人の感性の融合をテーマとする。10年にわたり自店を営んできた田村氏が、場所と店名を変えて新ステージで活躍。充実の時間を提供する。

スジアラの料理

慈華、スジアラの料理
脂ののったスジアラを分厚く切り、皮は油で揚げてサクッと、身はオーブンでちょうど火が入る加減にしっとりと焼き上げる。一切れを2種の火入れで仕上げる、現代的で緻密な技術が光る。ネギとサンショウで作る四川伝統の翡翠(ひすい)ソースを合わせた。

今回紹介したスジアラの料理は、その好例だ。今回は4.8kgの大きさで、脂のよくのったスジアラを使用。分厚く切り、皮はサクッと仕上げ、その下のゼラチン層も焼ききり、かぐわしい香りを引き出す。そして身は、ちょうど「生か火が入ったか」という、しっとりかつなめらかな状態にピンポイントで仕上げている。

実際の調理方法は以下の通り。まずは厚みを持たせて切ったスジアラの切り身に金串を打ち、皮面のみを高温に熱した油に注意深く浸して火を入れる。「中国人が伝統的に好む、パリッとした『脆』というテクスチャーを作ります」と田村氏。
その後は、高温のオーブンに1分半入れたら1分半出す、という作業を3回ほどくり返すことで、狙い通りの状態に身を仕上げる。いわば、皮と身を分解して考え、それぞれに最適な火入れを施す手法だ。

ウズラの丸揚げ

ウズラの丸揚げを茶葉で燻す
客前でふたを開けると、煙とともに燻香が立ち上り、丸ごとのウズラの姿が現れる、という趣向。素材の風味と食感を引き立たせるローストに。ウズラは、フランス種を埼玉県で飼育した、肉の旨みが豊かで柔らかい品種を使っている。半身に切り分け提供。

ウズラの丸揚げを茶葉で燻(いぶ)して仕上げる料理は、中国の伝統を色濃く感じせる一品だ。「中国では茶葉と生米で肉を燻すことが多々あります。鴨を燻した四川の樟茶鴨(ズィヤンチャーヤー)が有名で、この料理も、そのイメージから出発しました」

ここでは、中国の伝統的な鳥の丸揚げ(皮を徹底的にパリッと仕上げるのが特徴)の技術を使い、ウズラを調理。その後、茶葉で燻す。そして用いるのは、埼玉県で飼育されているフランス種のウズラ。豊かな旨みと柔らかく繊細な肉質が特徴で、その肉質を最大に生かすよう加熱しすぎず、しっとりと仕上げている。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。