自己肯定力を失った我が国若者と未来

時代を読む-第84回 原田武夫

時代を読む-第84回 原田武夫

サイバー空間

国内外を飛び回っている中でとりわけ我が国の経営者の皆様とお話をさせていただく際、ここに来て頻繁に耳にすることがある。それは「今の若い連中はなぜ何でもかんでも上司のせい、社長のせいにするのか」といったクレームだ。恐らく読者の皆さんも覚えがあるのではないかと思う。無論、世代間のいさかいが世の常であることも事実なのである。

年少者は常にチャレンジャー(挑戦者)なのであって、年長者はいつも権力者なのだ。しかしある時、「後継に譲るべき時」がやって来る。その時、あたかも問題は解決されたように見えなくもないが、その実、全く違うのである。なぜならば時は元に戻り、再び「世代間闘争」が始まるだけだからだ。

だが、今回は違う(This timeis different.)。なぜならば年少者は今やソーシャル・メディアという強力な武器を持っているからだ。しかも、「やればやるほど分配してあげられる」状況ではもはやないため、昇給・昇格で年長者が年少者を経営の現場でコントロールすることが不可能なのである。その結果、年長者はいわば「やられっぱなし」になるのである。

しかも時代の風潮はこれを後押ししており、やれ「何とか運動」といった形でこれら無数の年少者の声こそが絶対的な善だとばかり公言されるのである。

「 やってられない」―正直、そう思われる方も少なくはないはずだ。年長者の、とりわけ経営リーダーの方であればなおのこと、受忍限度のハードルはこれほどまでに低くはなかったのである。ところが今や企業の現場で人事権というムチではコントロールが不能になった若年労働者たちはいわばやりたい放題であり、極端な場合、「権利の上に寝っ転がって文句だけ言っている状態」に陥ったとしても、馘首(かくしゅ)されないほどにまでなっている。歯ぎしりを繰り返している経営者の皆様から様々な愚痴を聞く日々なのである。

だがしかし、こう言っていても全くもって問題は解決しないのである。問題、と言っても「本当の問題」である。それはこれら年少者たちがいずれも、実のところ異様なほど「自己肯定力」が低いという事実なのだ。「健全な意味での自己満足度」と言っても良いだろう。

とにかく、自分自身が何かをし、それによって何かが成し遂げられたことに対して、まっとうな満足を得る、そしてまたこのプロセスをじっくり繰り返すということが出来ないのである。なぜか。

その理由は簡単だ。これまで「儲もうかるから」とインフレ誘導の経済体制を維持してきた結果、もはや普通にしていてもモノ・サービスは売れない世界になってしまった。だからこそ、本来ならば売り手と買い手が相互に出会わないような状況にあってもビジネスが成り立つように時空間を超えるためのツールとしてのインターネットすら投入されたのである。

その結果、「問題」はあたかも解決されたかのように見えた。

しかし、本当は違うのである。デジタル化は全てにおいて「ゼロイチ」になること求めるものである。その結果、世の中全体が速くなったわけだが、そうであればあるほど、ついて行けない者たちが続出しているのである。

確かに今の若年者たちは「生まれた時からIT」といった世代ではある。だが、それによって成されるビジネス・プロセスの実際における耐久力・持久力・構想力・実現力はどうかといえば、全くもって何も年長者と変わりはないのである。「デジタル市民」などと偉そうなことを言っているが、若者たちは単にデバイスのユーザーに過ぎず、しかも2、3年で変わるデバイスに翻弄されているに過ぎないのである。そしてだからこそ、一つのプロセスをやり遂げることで満足を得るということがないのだ。

次々にチャンスはあるが、その一つをやり遂げないまま、次、はい次と与えられる。結果、うまく行かないのは当然であって、しかも頑張っている自分がそこにはいるのだ。そうしたことの繰り返しの中で「俺・私がうまく行かないのは誰のせい?」と他責を求める人格が固化し始めるというわけなのである。

世界中に蔓延する「憤懣(ふんまん)やる方なし」という機運の元凶はここにある。若年者だけではなく、もはや年長者までもがこの渦に完全に巻き込まれる時、デジタル経済は放棄され、インターネットも極限まで利用が制限されるようになる。―そう思えるのは私だけだろうか。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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