加賀友禅

加賀藩主の前田利常は、後水尾天皇を中心とする京都の芸術運動「寛永文化サロン」と交流し、多くの超一流の文化人を金沢に招いて、文化の振興に努めた。加賀友禅はその流れの中で生まれ、熟成の時を経て開花した伝統工芸の一つである。今に伝え継がれ、未来に紡がれていく伝統文様の世界へご案内しよう。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

加賀藩主の前田利常は、後水尾天皇を中心とする京都の芸術運動「寛永文化サロン」と交流し、多くの超一流の文化人を金沢に招いて、文化の振興に努めた。加賀友禅はその流れの中で生まれ、熟成の時を経て開花した伝統工芸の一つである。今に伝え継がれ、未来に紡がれていく伝統文様の世界へご案内しよう。

着姿の品格

加賀友禅、寺西一紘氏
寺西一紘氏は1940年生まれ。7代紺屋三郎右衛門。横浜市立大学卒業後、染料メーカー、三菱電機を経て家業を継承した、異色の経歴の持ち主だ。しかし代々、友禅師の家系。天性の素質に恵まれ、また幼少期より家業を手伝うなどしていたし、氏が作家への道を歩んだのは必然とも言えよう。

さて、長町友禅館に戻ろう。
2階で観光客向けに展示や手描き友禅彩色体験、本加賀友禅の着装体験などを行うこの館の3階に、現代の名工、寺西一紘(てらにし いっこう)氏が工房を構えている。
まずは氏に「加賀友禅の魅力とその秘密」について語っていただこう。

「加賀友禅の文様は、『着姿の品格』を目指して描かれます。そのために重視するのが様式美です。代表的な文様はいわゆる花鳥風月、美しい自然をあるがままの姿に手描きの線で表現したもの。
『外ぼかし』と呼ばれる技法を使って、花のグラデーションを外側から内側に薄くぼかしたり、『虫食い』という技法で虫に食われた葉や朽ちた病葉(わくらば)の様子まで描き出したり、自然の姿を文様化しているところが特徴的です」

「金箔(きんぱく)や絞り、刺繍(ししゅう)などの技法を用いる京友禅と違って、染めの技法のみで仕上げるのです。華美に走らず、余計な自己主張もしないところが“武家風”とも言えます」

「また色は、藍・臙脂(えんじ)・古代紫・黄土・草色の加賀五彩を基調に、作家が独自に組み合わせてつくり出します。微妙に異なる色合いに、一点ものたる価値があります」

  • 加賀友禅、寺西一紘氏
    染料は「加賀五彩」を基調に、作家がつくる。その濃淡により多種多彩な配色になる。
  • 加賀友禅、寺西一紘氏
    下絵の線に沿って引く糸目糊が防波堤になり、染料が外にしみ出さないようになっている。
  • 加賀友禅、寺西一紘氏
    筆と小刷毛(こはけ)を使って行う彩色には、手早さと集中力が求められる。
  • 加賀友禅、寺西一紘氏
    外側から内側へぼかす「先ぼかし」。京友禅ではこのぼかしが内側から外側へと逆方向だ。

「20近くに及ぶ多くの工程があって、それぞれの工程に熟練の職人の技が注がれています。そこに、技術の伝統を受け継ぎ、美しさを紡いできた加賀友禅の魅力がある」と寺西氏。

手描き友禅の制作は、図案作成に始まる。ここは一番の要。寺西氏のような作家が、鉛筆で精緻な線を描いていく。
次に、模様の輪郭を青花という露草の花の汁で、着物の形に仮縫いした白生地に写し取る。この下絵の線に沿って、糊を引くのが、「糊置(のりおき)」という作業。この糊は「糸目糊(いとめのり)」と呼ばれ、次に彩色をする際に、染料が外にしみ出さないよう防波堤の役割をする。

彩色した後は、全体の地色を染める作業だが、その前に下蒸しをして、さらに文様の部分に地色が入らないよう、もち米でつくった柔らかい糊で埋める。この「中埋」という工程を経て「地染」に入る。着物の地色をムラなく引く作業だ。

さらに蒸しを経て「水洗」工程へ。昔は犀川(さいがわ)・浅野川などの自然の川で行われ、その「友禅流し」が町の風物詩にもなっていたが、今は人工川で行われている。

そしてようやく仕上げの工程。作業の細かさといい、職人の経験に裏打ちされた微妙な“技加減”といい、完璧を期す手作業が加賀友禅の美しさに奥行きを与えていると実感する。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。