あなたには「次の時代」に向けた胎動が聞こえるか? 

時代を読む-第101回 原田武夫

時代を読む-第101回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第101回  あなたには「次の時代」に向けた胎動が聞こえるか?

最近、社会情報科学という学問を学んでいる。平たく言うと「経済物理学」とその周辺であり、伝統的な統計学の知見の上に1990年代後半から盛んになった研究を積み上げたものと言えばいいだろうか。

対象を経済だけではなく、政治も含め、「計算社会科学」というディシプリンがいよいよ立ち上げられてきているとも聞く。いずれにせよ、冷戦構造が崩壊し始めたばかりの1990年代初頭にキャンパスライフをまずは送った筆者の世代からすると、全くもってなじみがない領域であるのは間違いない。

このコラムでもしばしば触れてきていることだが、「未来をあらかじめ知る」ということは莫大な富と強大な権力を手にすることに等しい。アカデミズムにおける社会情報科学の担い手たちはおよそそうした野心に満ちあふれているとは見えない。しかし、こうした富と権力、そして社会情報科学の間の密な関係は疑いようもない事実なのである。

もっと細かなことを言うと、そこで皆が関心を寄せているのは「点過程の時系列解析」と呼ばれる作業だ。異なる時点に生じるイベントがあるとする。まずそれらの間で相互に関係があるのかないのかを詰めなければならない。同時に発生するタイミングが周期的なのかどうかも気になるところだ。また直近に起きた出来事と今・ここで起きている出来事が関係しているとすると、それぞれが持つインパクト、あるいはマグニチュードが一体どれくらい関係しているのかも重要な要素なのだ。

社会情報科学ではこれらの問題群をまず、「分布」という概念で示す。そして「正規分布」「指数分布」「べき分布」といった形で分類をし、同時に確率密度関数を計算し、グラフ化して見える化する。これでただちに「未来が見えてくる」というわけではないが、少なくとも直近も含め、過去に生じたイベントたちがどのような構造をもって発生したのか、また相互関係はどうなのか、クラスター(塊)として見るべきなのかどうかなどの示唆を得ることができる。

なぜこんなことを書いたのかというと、少なくとも私の目から見て、2018年ごろから生じていることは一見したところ「繰り返し」のように感じられてしまうからだ。無論、「新型コロナウイルスによる爆発的なパンデミックの発生」は生じたし、それによる惨事も次々に勃発した。

しかし、もう少しズームアウトして概観してみると、その実、何かを突き破ろうとしている「時代精神(Zeitgeist)」の風を感じるのだけれども、どうしても突き破れず、それでもなお律動が繰り返されている。そんなムードを感じざるを得ないのは果たして私だけだろうか。平均株価が3万円を勢いよく超えない日本株マーケット、何度も選挙をやるがどうしても「これが本当のリーダーシップだ」という人物が駆け上がってこない国内外の政局。

「メタバース」などと言っているが、結局のところ平たく言うと仮想現実の焼き直しに過ぎない世界で言葉遊びをしているデジタル産業。さらに言うと、「世界はこれで変わる」といまだに期待されているものの、その実、決定打となるアルゴリズムは当分の間出てこないと専門家たちがすでにささやき始めている人工知能(AI)の世界……例を挙げると枚挙に暇がないのである。

ただし、ここではあえて「それでもなお」と言っておきたい。「過去に起きた出来事の構造分析」だけをやっている社会情報科学がたった一つ導き出した真実があるのだ。それは一見するとそこで割り出される構造とは全く異なる「外れ値」こそが、実のところ次の時代への画期を創り出すということである。

正規分布、指数分布、そして「べき分布」のどれにも乗ってこない「外れ値」。しかしそうした掟破りの存在はすでに姿を現し始めているのであって、必ずや「2022年以降の全く新しい現実」を瞬く間に創り上げることになる、と筆者は考えている。否、今この瞬間、強くそう感じている。

さて、読者の皆さんにはその胎動が聞こえているだろうか。いよいよ全く新しい者たち、そして事どもの「出番の時」が訪れている。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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