健康寿命120年の未来へ

老化細胞とは我々の体にどのような影響をもたらしているのか。老化細胞除去薬が実用化される日が来るのか。老化メカニズム研究の第一人者である中西教授に話を聞いた。

Photo Masahiro Goda Text Ichiko Minatoya

老化細胞とは我々の体にどのような影響をもたらしているのか。老化細胞除去薬が実用化される日が来るのか。老化メカニズム研究の第一人者である中西教授に話を聞いた。

GLS1阻害薬が治療薬になる日 

中西教授はこのGLS1阻害薬は老化防止という目的ではなく、老化によって起こるさまざまな病気の治療薬として使われることになるだろうと考えている。

すでに米国では癌患者の治療に用いられており、ヒトへの安全性はある程度確認されている。実際に日本でも実用化されるのはいつぐらいになるのだろうか。

「そう遠い話ではないと期待できます。本当に老化細胞だけに作用して、健康な細胞に影響を及ぼすことがないか、マウスでは成功でもヒトで同じ効果が得られるかなど、慎重に検証を続けていきます。私はこの薬を治療薬として確立し、誰もが安価で使えるようにして、世に出したいと考えています。現在はまだ予防医療は保険診療ではありませんが、今後保険診療が適用されるようになれば、老化予防薬としてGLS1阻害薬が処方されると、健康寿命が劇的に延びる、QOLがあがると期待されます」

健康寿命の延伸にはさらなる研究が必須

中西教授は内閣府のムーンショット型研究開発事業で「老化細胞を除去して健康寿命を延伸する」をテーマにプロジェクトマネージャーを務めている。これは2040年をめどに癌や動脈硬化などの老年病、生活習慣病、そして加齢に伴う各臓器の機能不全を標的に、老化細胞などの炎症誘発細胞を除去する技術を社会実装しようとする国家プロジェクトだ。これにより、高齢化社会で問題となる医療費や介護費の増大も防げる。

「そのためには確実なエビデンスを得るための臨床研究が必要であり、それには資金や人材を要します。米国では老化研究や老化阻害薬に取り組むベンチャー的な製薬会社がありますが、日本ではこうした新薬開発に投資する人も、参加する人材もまだまだ少ない。ぜひ老化研究に関心を持ってもらい、すそ野を広げていきたいです」

GLS1阻害薬だけでなく、アルツハイマー型認知症などの神経性疾患の制御につながる、別の治療薬の研究も進めている中西教授。最大寿命120年を健康に過ごせる未来はすぐそこまで来ている。

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ラグジュアリーとは何か?

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