健康寿命120年の未来へ

老化細胞とは我々の体にどのような影響をもたらしているのか。老化細胞除去薬が実用化される日が来るのか。老化メカニズム研究の第一人者である中西教授に話を聞いた。

Photo Masahiro Goda Text Ichiko Minatoya

老化細胞とは我々の体にどのような影響をもたらしているのか。老化細胞除去薬が実用化される日が来るのか。老化メカニズム研究の第一人者である中西教授に話を聞いた。

中西教授
中西真 なかにし・まこと
東京大学医科学研究所副所長・癌防御シグナル分野教授。1985年に名古屋市立大学医学部医学科を卒業し、89年に同大学院医学研究科博士課程修了。同医学研究科基礎医科学講座細胞生物学分野教授などを経て、2016年4月より現職。主な研究テーマは老化細胞と加齢に伴う癌発症の解明。著書に『老化は治療できる!』(宝島社新書)など。

健康寿命を延ばす

2021年1月、米科学誌『サイエンス』にて東京大学医科学研究所などの研究チームが、マウス実験から「老い」の原因となる「老化細胞」を除去する老化細胞除去薬を発表。この論文は世界的に注目を集めた。

不老不死。それこそは人類の究極の夢と言ってもいいだろう。かの秦の始皇帝を始め、古今東西の王侯貴族が憧れ、そのための妙薬妙法を探した不老不死。

21世紀の現代において、医療の発達や生活全般の改善で、不死とはいかぬまでも、長寿は実現された。だが肉体の老いを感じ始めるのが50代だとすると、人生100年時代の半分は老いて生きることになる。そのことに不安を抱いている人も少なくない。なぜなら老いは肉体の衰えとともに病気を運んでくる可能性が高いからだ。我々人類が望む長寿は健康寿命を延ばすことであり、そのためには、まだまだできることがあるのではないか。

東京大学医科学研究所副所長であり、癌防御シグナル分野教授の中西真氏は、老化の仕組みを研究し、老化によっておこる炎症が、さまざまな臓器に悪影響を及ぼすこと、そして老化細胞が生存するために必要な酵素があることに注目した。

「老化がすべての生物に起こる現象なら、それは抗いがたいものと言うこともできるでしょう。しかし地球上には顕著な老化現象が存在しない生物や、中には、少なくとも1400年は生きると確認されている、事実上不死と言ってもいいのではないかというような生物もいます。であれば、老化しない生き方というのは、成立しえないものではない。老化そのものが悪いというより、老化によって癌を始めとした病気が引き起こされることが問題で、その仕組みを解明すれば、健康寿命を延ばすことは可能と考えられます」

中西教授によると加齢に伴い老化細胞が体内に蓄積するようになり、それらが臓器などで炎症を起こし、正常な働きを阻害するのだそうだ。

図1
図1. 老化を制御する2つの仕組み
人間の最大寿命は老化や病気とは異なる仕組みで決まるため、老化細胞除去薬によって100歳を超えても元気に生きる人が増えたからといって、最長で120年というのは変わらないだろうと、中西教授は言う。
出典:「老化細胞を除去して健康寿命を延伸する」(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)より
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ラグジュアリーとは何か?

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