書き続ける「体力」 グランサイズ

当代きっての人気作家、堂場瞬一氏の筆が止まらない。2001年、まさに新世紀を迎えた年にスポーツ小説『8年』でデビューして以降、2015年10月までに刊行された作品は全100冊!そこを「通過点」とばかりに軽々と走り抜け、なおスピードをゆるめることなく、警察小説をはじめとする多彩なジャンルで次々と意欲作を生み出している。その執筆活動を支える強靭な体力・知力・創作力の源泉は何なのか。堂場氏の“通いつけ”のフィットネスクラブ「グランサイズ 青山」でお話をうかがった。

Photo TONY TANIUCHI Text Junko Chiba

当代きっての人気作家、堂場瞬一氏の筆が止まらない。2001年、まさに新世紀を迎えた年にスポーツ小説『8年』でデビューして以降、2015年10月までに刊行された作品は全100冊!そこを「通過点」とばかりに軽々と走り抜け、なおスピードをゆるめることなく、警察小説をはじめとする多彩なジャンルで次々と意欲作を生み出している。その執筆活動を支える強靭な体力・知力・創作力の源泉は何なのか。堂場氏の“通いつけ”のフィットネスクラブ「グランサイズ 青山」でお話をうかがった。

堂場瞬一(どうば・しゅんいち)
堂場瞬一(どうば・しゅんいち)1963年、茨城県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2000年秋『8年』にて第13回小説すばる新人賞を受賞。著書に「刑事・鳴沢了」シリーズ、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ、「刑事の挑戦・一之瀬拓真」シリーズ、「汐灘」サーガのほか、『バビロンの秘文字』『誤断』『Sの継承』(以上中央公論新社刊)、「警視庁追跡捜査係」シリーズ(ハルキ文庫)、「アナザーフェイス」シリーズ(文春文庫)、「捜査一課・澤村慶司」シリーズ(角川文庫)、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ(講談社文庫)、『虹のふもと』(講談社)、『蛮政の秋』(集英社)、『Killers』(講談社)、『十字の記憶』(KADOKAWA)、『黄金の時』(文藝春秋)、『夏の雷音』(小学館)などがある。

10作+番外編で惜しまれつつ完結した「刑事・鳴沢了」を皮切りに、架空の部署を舞台にした「警視庁失踪課・高城賢吾」ならびに「警視庁追跡捜査係」、シングルファーザーの刑事を主役にした「アナザーフェイス」などの人気シリーズものは、いずれも文庫の書き下ろし。従来、「まず単行本で出してから文庫化する」のが常識だった小説界に、堂場氏は文庫書き下ろしという新たなスタイルを切り開いた。

もちろん、シリーズではない警察小説はほかにもたくさんあるし、野球・ラグビー・マラソンなどのスポーツ小説に医療ミステリーと、ジャンルもさまざま。一言で言えば「多作」だが、それゆえに内容が薄くなることはなく、常に新鮮、かつ読み応えのある新作を世に送り出している。「創作の引き出し」は、まるで打ち出の小槌(こづち)なのではないかと思えるほどだ。

しかし、堂場氏はさらりと言う。

「どんなジャンルでもベースは同じ。人物の設定とか、上っ面が変わるだけで、人間のいやらしさみたいなものを書くという根底の部分は同じなので、自分の中では別のものを書いている意識はありませんね」

落とし気味で2時間18枚ペース

堂場氏はいったい、どのくらいのペースで原稿を書くのだろう。

「今日も朝2時間ほど書いてからここに来ました。原稿用紙で18枚くらい。けっこう落とし気味のペースで」

は……速い!〝時速〞にすると9枚、つまり1時間に3600字の計算になる。引き合いに出すのは失礼ながら、凡人から見ると驚異的なスピードだ。もっとも「集中している時は時速15枚くらいになる」というから、堂場氏にとってはたしかに9枚でも「落とし気味」なのだろう。

ただし、集中力を高めて一気呵成(かせい)に書き上げた第一稿が、そのまま本になるわけではない。二稿、三稿と、10回前後も推敲(すいこう)すると聞く。緻密(ちみつ)なストーリー展開は、この粘りなしには語れない。

時事の基礎体力

「先日、ちょっと真面目に計算してみたところ、実際に書いている正味の時間は、朝2時間、昼2時間、夜1時間で、計5時間くらいですね。意外と短いでしょ? 仕事場にはほぼ一日中いますが、参考資料を読んでいる時間が長いんです」

資料読みでとくに重視しているのは「時事の基礎体力」をつけること。新聞は複数紙を丹念に読むし、時事ネタを短くまとめた新書もよく読む。リアルの世界で起きている社会的な事象や、何か事件が起きた時にそれに関わる人たちの動きなどを知ることが、作品づくりに役立つという。

「目的なくいろいろなものを読んでいるうちに構想が膨らむこともあれば、これを書くと決めてから資料を集めることもあります。バラバラですね」と言う堂場氏は、準備にかける時間もまちまちで、作品によっては「構想10年」というものもあるそうだ。いずれにせよ、資料読みを含めた準備は、作品の基礎固めをする非常に大事なところなのである。

運動で生活のリズムをつくる

堂場氏はもう10年以上、週3回ペースで汗を流している。当初の目的は「体重を落とす」こと。デビュー直後のストレスや不規則な生活、食べ過ぎがたたって、体重が15㎏も増えてしまったそうだ。「食べ物の制限はあまりしたくなかったので、とりあえずアウトプットを増やそう、体を動かそうと思ったのがきっかけです。かなり絞りましたが、なかなか自由にコントロールできないのが、トレーニングのおもしろいところ。人体実験する感じで、楽しみながらやってます。

でも今は、ダイエットは二の次で、お昼前後にここで過ごす1時間が生活の核になっています。この時間帯だけは運動のために確保して、執筆や打ち合わせなど、すべての予定をトレーニングを軸に決めています。生活のリズムがつくれるんですよね。周囲には『昼は連絡をよこすな』ってお触れを回しているくらいで、私にとっては誰にも侵されたくない大事な時間です」

グランサイズ 青山 会員専用の「カフェラウンジ」では、トレーニング前後に、雑誌や新聞を読みながらゆったりくつろぐこともできる。無料Wi-Fiも完備している。
グランサイズ 青山 会員専用の「カフェラウンジ」では、トレーニング前後に、雑誌や新聞を読みながらゆったりくつろぐこともできる。無料Wi-Fiも完備している。
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グランサイズで頭をリセット

堂場氏がそこまでトレーニングタイムを重視する理由は、もう一つある。それは、仕事から離れて自分をリセットすることだ。

「筋トレをしている20~30分の間、頭を空っぽにできるんです。ひたすら筋肉の動きに集中している、いわば『無』の状態。考えるのが商売ということもあって、ほかの時間は何か考えてる。頭が休まらないんです。それに基本、一人で仕事をしていますから、じっと考えているだけだと、どうしても行き詰まってしまう。それを一度、筋トレで解放してあげるのも、私にとっては大事なことです。一通り筋トレした後に40分くらいバイクを漕(こ)ぐのがパターンです。この時間が読書にちょうどいい。大好きな海外ミステリーをずーっと読んでます。仕事からちょっと離れて趣味の世界で遊ぶ感じで、頭をリセットしています。あと、ここはプライバシーが確保されているのがいいですね。グランサイズは私にとって、ビジネスパフォーマンスを向上させる大切な場所になっています」

堂場氏は無類の読書好き。高校生の頃に海外ミステリーにはまって以来、今も大量に読み続けている。それが有形無形に自身の作品に影響を与えているという意味では、“バイクの時間”も仕事の範疇(はんちゅう)と言えよう。また「スポーツ小説を書く以上は、運動している時の苦しさや、終わった後の痛みを知らないではすまされない。その感覚を忘れないように運動を続けているところもあります」と言う。

「この商売、最後は体力なんですよ」と、堂場氏。秋ごろには、「今まで書いたことのない小説」が出るそうだ。運動によって仕事を磨き上げてきた“肉体派作家”が生み出す、今後の新作に期待が膨らむ。

●問い合わせ グランサイズ各施設まで

※『Nile’s NILE』2016年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。