こうして身につけたベースに、自分なりのエッセンスを加えたのが、現在の膳楽房の料理だ。
「日本で出版された、中国料理の古い本を見るのが好きです。陳建民さんをはじめとする中国人料理人たちが主導して、戦後の日本で花開いた中国料理に惹かれるのです。この時期の料理が、今の日本における中国料理の礎になっているのですから、もっと深く知りたい」と、榛澤氏。
また、オープン間もないころに合流したかつての同僚で、台湾人料理人の張振隆(チョウツェンロン)氏の影響も大きい。彼経由で知った台湾独自のハーブやスパイス、家庭料理の要素も、柔軟に取り入れられている。
「『膳』は、食事という意味。その『楽房』つまり『ラボ』でありたい、という思いも店名に込めています」
大学時代は理系で、応用化学を専攻していた氏は、「研究は嫌いじゃないんです」と笑う。あくまでもシンプルな料理を旨としながら、そのおいしさの裏付けを常に追求している榛澤氏。一見素朴に思える料理にも理論や哲学が貫かれている、その深さが個性となり、多くのお客を惹きつけている。
榛澤知弥
1976年、東京都生まれ。大学卒業後、アルバイトをしていた阿佐ヶ谷の老舗居酒屋に就職。その後「龍口酒家 チャイナハウス」に入り、10年間働く。2013年に独立し、「膳楽房」をオープン。
●中華菜 膳楽房
東京都新宿区神楽坂1-11-8
TEL 03-3235-1260
※『Nile’s NILE』2019年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています