料理は旅だ

ワインとともに豪快に楽しむ、骨太な料理。かつ、技術は確かで、味がピタリと決まっている。さらに、遊び心が織り込まれ、世界各国の料理の要素もミックスされているワクワクする内容。オープンから18年目になる「マルディ グラ」は、和知徹氏のブレない料理で多くのお客を引きつけ続けている。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

ワインとともに豪快に楽しむ、骨太な料理。かつ、技術は確かで、味がピタリと決まっている。さらに、遊び心が織り込まれ、世界各国の料理の要素もミックスされているワクワクする内容。オープンから18年目になる「マルディ グラ」は、和知徹氏のブレない料理で多くのお客を引きつけ続けている。

スパイス、ハーブ、赤身肉が、どんどん人気に

料理で心がけているのは、食材の持ち味を引き出し、いろいろな国の要素を自由にミックスしながらも、シンプルに仕立てること。
「マルディ グラ」をオープンしてから18年が経ちますが、この考え方は変わっていません。

その一方で、この年月で、お客様のほうは大きく変わったと感じます。例えば、アジアや中東の個性の強いスパイスやハーブに抵抗感がなくなり、むしろ積極的に楽しむようになりました。

肉に関しても、赤身肉の魅力が浸透し、かむほどに旨みが出るしっかりとしたものを好む人が増えましたね。かつては、肉は「とろける」「柔らかい」が褒め言葉でしたが、今では肉を評価する選択肢が広がり、それがお客様の間に浸透していると思います。

今回紹介した料理(次ページ)も、肉のしっかりとした旨みを存分に楽しんでいただく、仔羊の串焼きです。味付けは中央アジアとトルコの混合。マスタードとヨーグルトを揉み込み、粗挽きにしたクミンをかけています。

この骨太な風味に、筋肉の繊維がしっかりとした、力強い味と食感が特徴のフランス産の仔羊肉を合わせました。炭火で表面を香ばしく、中はしっとりと焼き上げ、この肉が持つ味わいを引き出しています。

旅をして食を体験するのがライフワーク

食をテーマに世界中を旅するのが好きで、今まで国でいうと23カ国、都市やエリアとしてはもっと多くを見てきています。

北米ならニューヨーク、カルフォルニア、オレゴン、ニューオーリンズ、アラスカ。ニューヨークは特に好きで、定期的に訪れています。中南米はメキシコ、そして肉の世界的産地ブラジル、アルゼンチン。

肉つながりでは、オーストラリアのタスマニアも印象に残っています。
ハワイ、バリ、フィジーなど、リゾートで有名な場所にも行きますが、食がテーマで、観光はほとんどしません(笑)。

中国も好きで、北京、西安、香港に行きました。どこも面白いですが、西安はいいですよ。とにかく羊がおいしい。小麦粉の文化が発達していて、麺の種類が豊富で味もよい。

カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンなど中央アジアにも行きました。

もちろんヨーロッパも中欧、東欧含めて回っています。フランスはほぼ全土。イタリアは北から南までいろいろ。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナのあるトスカーナは、思い入れの強い土地です。

日本国内の地方も好きです。店で使う食材の生産者さんを訪ねる中で、その土地固有の野菜を教えてもらったり。まだまだ知らない食材が日本にもいっぱいあり、発見は尽きないです。

表情のある道具に引かれる

世界各地の食の現場では、料理だけではなく、道具や器を見るのも楽しみです。土地によって個性はさまざまですが、どこに行っても形がユニークで、手作りのぬくもりがあるものに引かれます。

群馬にアトリエを構える鉄の作家、成田理俊さんのフライパンや器

日本国内の作家が作る品々にも、好きなものが多いです。とりわけ気に入っているのが、群馬にアトリエを構える鉄の作家、成田理俊さんのフライパンや器です。

成田さんは一つひとつ、鉄を塊から打つという、大変な手間をかけて作品を作っています。たとえ同じ直径のフライパンでも形は皆、微妙に違い、存在感のあるたたずまい。

また成田さんの作るものは、機能の面でも抜群にすぐれています。フライパンも、最初に手にした時から手になじみますが、使うほどに熱の伝わり方、焦げ色のつき方などを把握でき、さらにしっくりと意思疎通ができる感覚です。ただの道具ではなく、表情があり、使う楽しさが感じられるものはやはり魅力的ですね。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。