疑うということ

食語の心 第130回 柏井 壽

食語の心 第130回 柏井 壽

食語の心 第130回、柏井 壽、疑うということ

取り立てて目新しいものではないのに、急激にブームの様相を呈する食がある。

ちょうどコロナ禍が明けたころから、安価な鰻を提供する店が増え始め、その勢いはまさにウナギのぼりで、チェーン展開する店も現れ、まるでファストフードのようなフランチャイズ店も目立ち始めた。

グルメブームに目ざといメディアはもちろんのこと、SNSでもしばしば話題に上り、それらはほぼすべてが好意的な反応を見せている。いわく、これまでは高額でなかなか手を出せなかったが、半値近くで食べられるのがありがたい、という論調だ。

ここでひとつの疑問が浮かぶ。

たしかに安価で提供されてはいるが、牛丼チェーンの鰻も同程度か、もしくはさらに安い値段で食べられる。だが牛丼チェーンの鰻、という目で見られるせいか、さしたる話題にも人気商品にもなっていない。では急激に店舗を拡大している鰻専門チェーン店との違いはなにか。イメージ戦略が成功したと言っていいだろう。ことさらにニホンウナギという言葉を強調し、海外産であることを表に出さない手法が当たったのだ。

たとえば大手牛丼チェーンの鰻は、はっきりと中国産とうたっているが、くだんの鰻チェーンのホームページには、外国の名は見当たらない。厳選された養鰻(ようまん)場で、としか書かれておらず、ニホンウナギという品種名だけが目立つせいで、国産鰻だと錯覚する人が多かったに違いない。

現にSNSでも、「日本の鰻を使っていてこの価格は驚異的だ」

という投稿があり、多くがそれに賛同するというのを目の当たりにして、なるほどと思った。店側は国産鰻を使っているとは一言も言っていないにもかかわらず、多くがそう思いこんだのは、やはりニホンウナギという品種名が目立つからだろう。まんまとイメージ戦略に乗っかってしまったということだ。

1 2
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。