好循環の源は「人」にある
銀座にオープンして17年が経つ「マルディ グラ」。並木通りに面したさりげない入り口から地下へ階段を降りると、こぢんまりとした居心地のよい空間が広がる。
ここで提供されるのは、オーナーシェフの和知徹氏による、肩ひじ張らずにワインとともに楽しめる骨太な料理。世界各国の郷土料理の要素がそこかしこに顔を出す、生き生きとした魅力を備えた料理だ。
ボリュームとインパクトがありつつ、スッと体になじむナチュラルさも特徴。そんな料理を求め、連日テーブルが埋まっている。
和知氏はもともと、王道の高級フランス料理店で修業を開始したが、徐々にその枠の外にも面白さがあることを知っていったという。
「修業が一段落した90年代の後半、フランスに研修に行くと、現地では地中海料理を取り入れたアラン・デュカスが大人気。自由でヘルシーな彼の料理に触れ、『料理は柔軟でいい』と確信した」
その後、銀座「グレープ・ガンボ」でシェフを務めた際は、ニューヨークやバスクのスタイルを意識。世界中のワインを取りそろえていたため、「少し変わったワインを面白がるようなお客様が集まってきて、料理も自由になりました」
和知氏は、現在では「肉」のスペシャリストとして注目されることが多い。テレビのドキュメンタリー番組で世界の名だたる牛肉産地を訪ねるなど、肉の奥深さを発信する機会も増えている。
また、中央アジアや東欧といった日本人にとってマイナーな地域を訪れ、その地の食文化を魅力的に紹介するなど、好奇心豊かでフラットな視点でも共感を集める。
こうして旅を重ね、その成果を料理に反映し、お客の支持を得続け、発信も行う。好循環の源を聞くと、「やはり人ですね」と言う。
「スタッフもそうですし、生産者の皆さん、そして料理を食べてくださるお客様。時代時代で支えてくれる人がいて、新しいページが増えたのです」
投げかけるだけではなく、受け止めてくれる人を意識し、ともに楽しむ。マルディ グラが常に活気にあふれ、人気を集め続ける理由はここにある。
和知徹
1967年兵庫県生まれ。調理師学校を卒業後、「レストランひらまつ」を経て、1998年に銀座・三原小路の「グレープ・ガンボ」の立ち上げからシェフに。2001年「マルディ グラ」を独立開業。
●マルディ グラ
東京都中央区銀座8-6-19
野田屋ビルB1
TEL 03-5568-0222
※『Nile’s NILE』2019年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています