真のラグジュアリーとは 後編

現代イタリア料理と、日本の風土や文化が融合したガストロノミー「ファロ」。料理を通して自然の多様性や新しい価値観を伝えてくれる。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

現代イタリア料理と、日本の風土や文化が融合したガストロノミー「ファロ」。料理を通して自然の多様性や新しい価値観を伝えてくれる。

ファロ
一見、ヨーロッパの伝統料理「テット・ド・フロマージュ(豚の頭肉をゼラチン質で固めた品)」に見えるが、こちらはキノコを使ったテリーヌ。ヒラタケと紫ヒラタケを63°Cで10時間加熱し、アガーで固めた。きのこの旨みがもっとも凝縮し、おいしいだしがとれるのがこの温度帯と加熱時間。レモンオイルと松のオイルで風味をつける。

真のラグジュアリーとは 前編 より続く

ファロではまた、厨房の中での廃棄食材の最小化を徹底している。今回能田氏が紹介してくれた「精進大根のラヴィオリ」はその好例だ。この料理は、和の精進だしを染み込ませた大根のスライスに、その精進だしをとる際に出るだしがらから作るペーストを挟んだもの。
だしがらといっても、内容は炒り大豆、炒り米、どんこしいたけ、昆布、切り干し大根なのだからおいしいに違いない。通常では捨ててしまうだしがらを無駄なく使いきり、しかも旨み、コク、満足感を備えた料理を作り上げている。

一方、料理を通して自然の多様性の貴重さを伝えることもある。今回加藤氏が紹介したデザート「花のタルト」は、里山の自然を表現した一品。40種類にものぼるハーブや花が盛り込まれている。花は、高知や奈良の山奥から送られてくる野生のものも含まれる。

野の花を使うようになった経緯について、加藤氏はこう話す。
「ファロでは店で使う素材の生産者や、道具を作る職人の方々にチームで会いに行っているのですが、その一環で高知の農家さんを訪ねたことがありました。そこで、80歳を過ぎたおばあちゃんたちから農業をするのが体力的にきつい、という声を聞いて。そんな声に対して何かできるだろうか? と考え、話をしていたところ、彼女たちは里山に咲く花にとても詳しいことに気づいたのです。早速、『私たちが食材として使うので、ぜひ花を摘んで送ってください!』と、リクエスト。彼女たちにとっても、私たちにとってもプラスになる解決策を見つけることができました」

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。