時代を超えてつながる種って、すてきです

京都市北部、上賀茂。平安京ができる以前から京野菜の栽培が盛んだったこの土地に、100年以上にわたって代々受け継がれてきた種子を守り、野菜を育て続けてきた「田鶴農園」がある。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

京都市北部、上賀茂。平安京ができる以前から京野菜の栽培が盛んだったこの土地に、100年以上にわたって代々受け継がれてきた種子を守り、野菜を育て続けてきた「田鶴農園」がある。

賀茂別雷神社(上賀茂神社)
上賀茂神社の正式名称は「賀茂別雷神社」。厄除けや開運だけでなく、縁結びなどのご利益もある。

賀茂川と高野川に挟まれた扇状地形にある上賀茂は、良質で豊富な水と肥沃な土地に恵まれ、古くから農業が営まれてきた土地だ。上賀茂神社は、五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈る祭事が起源とされている葵祭(あおいまつり)で有名。朝廷から庶民に至るまで昔から京野菜の発展に尽力してきたこの地域では、伝統的に農家が野菜を直接販売する“振り売り”が盛んだった。

「その名残で今も共同出荷をあんまりしないんです。上賀茂の農家は、直接作物を売りに行ったり、お店に出したり、小回りで成り立っているところが多いですよ」
そう語る田鶴さんのきゅうりも、買える店はごくわずか。特にあさかぜきゅうりは収穫量が少なく、高級料理店に直接卸すことも多いため、市場で出合えれば幸運と言える。
「時代が変わって、野菜本来の味を気にする人というのはだんだん少なくなっている気がします。でも、次の世代につなぐことも考えつつ、よいものはずっと残していきたいですね」

農園の奥には、同じ形をした建売の家々が並んでいた。「今までは畑と田んぼしかなかったのに、住宅の波が来ているんです」と田鶴さんは遠くを見つめる。
夏、きゅうりの収穫時期はそろそろ終わり。日をいっぱいに浴びて太った白いあさかぜきゅうりを齧(かじ)れば、爽やかな香りが強く、青々と濃い夏の味がした。

重要伝統的建造物群保存地域に指定されている社家町
重要伝統的建造物群保存地域に指定されている社家町の中に田鶴さんの家がある。

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