
「今回は、きゅうりでなくてはダメ、となる料理を意識しました。ひとひねりが必要です。なにしろ、すごく静かな声を発する子たちですから(笑)」
爽やかさ、清らかさ、かすかな苦み。きゅうりの風味はささやかだ。それをすくい上げたい、というのが川田さんのテーマとなった。
そんな川田さんが今回考案した3品では、茶禅華のモットーである「和魂漢才」、すなわち「日本の感性と中国料理の技術の調和」が生かされている。まず3品とも、きゅうりの優しい個性に合わせて、料理のトーンは全体的に穏やかにした。しかし、ただ穏やかなのではなく、その中にも繊細な抑揚を作り、きゅうりの個性を浮かび上がらせる。その際に用いるのは、素材の持ち味を殺さないクリアな旨みや味付け。こうした繊細さ、クリアな旨みや味付けへの志向は、日本料理らしい感性からくるものだ。
金沢産 加賀太きゅうり

加賀太きゅうりを用いた温かい料理。「加熱した加賀太きゅうりの、爽やかなメロンのような香りを生かしたくて考えました」と川田さん。鱧のだしで炊いた加賀太きゅうりを鱧で包み、クリアな旨みが特徴の雉の上湯に軽くとろみをかけた。好みですだちの汁を搾る。温かい料理でありながら、食べ終えると口でも胃でも清涼感のある一品だ。具体的な仕立てとしては、鱧は骨切りして葛を打ち、さっとゆでる日本料理の技法で。一方、雉の上湯には加賀太きゅうりの皮をごく細かく切って加え、翡翠仕立てに。
「皮の風味は強く、ここに一番おいしさや風味がある」
鱧と雉の風味と旨みを、加賀太きゅうりがつなぐ一品に仕上がった。
たとえば加賀太きゅうりと鱧(はも)の料理では、仕上げに、軽くとろみをつけた雉(きじ)の上湯をかける。ここで雉の上湯を使ったのは、それが中国料理のスープの中で最もきれいな旨みを表現できると考えるから。「通常の豚や鶏で作る上湯では強すぎる。雉の上湯は、日本料理の一番だしと同じ世界観だと思っています」