最新ガストロノミーの読み解き方を指南する

本の食べ時 第2回 君島佐和子

本の食べ時 第2回 君島佐和子

鑑賞に当たって、浜田さんは次のような注意を喚起する。「好き嫌い」と「良い悪い」を混同してはいけない。国による味覚の違いはリセットして臨むように。その上で料理と向き合い、「どれだけ考え抜かれているか」「考えをどこまで体現できているか」を見いだしなさい。「『関ジャム』的に食べる」というたとえは分かりやすい。

音楽やアートと同じ目線で楽しむがゆえに見えてくるものは多い。「ビジュアルアートが最も先鋭的で、続いて音楽、そして食は最も保守的にならざるを得ません」、このフレーズを読んで、川久保玲の言葉を思い出す――「よかったですね、きれいだったですね、と全員から評価を受けたとしますね。それはもう不安です。そんなにわかりやすいものを作ったのか、と自己嫌悪に陥ってしまう」(『アンリミテッド:コム デ ギャルソン』平凡社/2005年)。アバンギャルドを貫く強烈な意志には憧れるが、食では無理だなと思う。浜田さんは次のように書く、「食は、口に入れるという時点で大きな制約が課せられています。いくらメッセージ性が素晴らしくても、体に悪いものを口に入れると、下手すれば死んでしまう」

グローバリズムの進行と共に、ガストロノミーは加速度的に進展と拡張を続けている。中米、中国、アジア、中東の台頭は本書にも詳しい。現地へ行かなければ体験できないのが鑑賞としての食だ。以前、あるジャーナリストが言っていた。「アートは現物を見て購入する。ファッションは試着して買う。しかし、レストランの予約は賭けだ。だからガイドが必要なのだ」。OADのレビュアーランキング1位というタイトルは、浜田さんの鑑識眼の確かさを物語る。

「10年前の僕は、今の僕から見たら何もわかっていなかった。ということは、10年後の僕は、今の僕を見て何もわかっていなかった、と振り返ることになるのが目に見えている」との締め括りに次作への期待がいや増す。

君島佐和子 きみじま・さわこ
フードジャーナリスト。2005年に料理通信社を立ち上げ、06年、国内外の食の最前線の情報を独自の視点で提示するクリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て17年7月からは編集主幹を務めた(20年末で休刊)。辻静雄食文化賞専門技術者賞選考委員。立命館大学食マネジメント学部で「食とジャーナリズム」の講義を担当。著書に『外食2.0』(朝日出版社)。

※『Nile’s NILE』2024年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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