新作タイムピースの発表やシンポジウム、チャリティーオークションなどからなるイベント、ジュネ―ブ・ウォッチ・デイズ(略称GWD)が8月29日から9月2日までの日程で開催された。GWDは、コロナ禍でバーゼルワールドとウォッチズ&ワンダーズの2大エキシビションが中止を余儀なくされた2020年8月、ブルガリCEOのジャン-クリストフ・ババン氏が音頭を取り、ブルガリ、ブライトリング、ジラール・ぺルゴ、H. モーザー、MB&F、ドゥ・べトゥーンの6ブランドが参加しスタートした。ジュネーブのパレクスポのような大規模展示会場ではなく、市内のブティックやホテルなどで新作発表やプレゼンテーションを実施。当初はコロナ禍における窮余の策とも映ったが、会場を分散させ、ジュネーブ州の後援を受けつつオープンな市民参加型とするコンセプトなどに、新たな可能性が秘められていた。
5回目となった今回は、なんと52ブランドが参加。いわゆるメジャーなメゾンの参加は限られつつも、ブレゲ、ブランパン、グラスヒュッテ・オリジナルというスウォッチグループのハイエンド3ブランドも名前を連ねた。おそらく出展コストが抑えられていることから、個性派マイクロメゾンも多数参加。オークションハウスのフィリップスによるチャリティーオークションも開催されるなど、GWDが今後の新作発表のあり方に影響を及ぼすことは間違いなさそうだ。
さて今回のGWDでの注目すべき新作として、ロシアの独立時計師、コンスタンチン・チャイキン氏が発表した「ThinKing」を挙げたい。チャイキン氏は工学系エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、地元で開催された「ブレゲ展」に感銘を受け03年から独学で時計製作を開始。時分表示が目、ムーンフェイズが口を思わせるユーモラスな顔のようなデザインのレギュレーターウォッチ「リストモン」シリーズの第1弾「ジョーカー」を17年に発表すると一躍話題に。以降、このコレクションをアイコン的な存在として進化させてきた。
今回の「ThinKing」は、目に相当する部分に時分表示、口に当たる部分にロゴを配し、顔ふうのデザインを踏襲。超薄型バレル、機能を分散させたダブルバランスホイール機構など三つの特許や、メインプレートとケースバックとを一体化する構造など、独自の発明により世界最薄を実現した。
前回の当連載で、銀座の時計ブティック注目の動きを取り上げたが、日新堂銀座本店4階フロアに世界初となるコンスタンチン・チャイキンサロンが5月末にオープンしたことも話題。これに合わせて初来日したチャイキン氏は、筆者にこう語ってくれた。
「銀座にはスケール感やグローバルなアプローチがある。創業130年以上の歴史がある日新堂には信頼感があり、受け入れ態勢も整っている。サロンの内装にも満足している」
遠からず、ここで世界最薄モデルと対面できるのを待ちたい。ちなみに、このサロンには、チャイキンのパートナーでもあるロシアンブランド、ゲルフマンのコーナーも併設されている。世界初のニキシー管腕時計も興味をそそるに違いない。
●ANDOROS
TEL 03-6450-7068
まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。
※『Nile’s NILE』2024年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています