近年、シャネルのウォッチメイキングの充実度が増している。シャネルがメゾン初のタイムピース「プルミエール」を発表し、ウォッチメイキングの世界に足を踏み入れたのは1987年のこと。時計業界への参入の歴史は長くはないが、なぜここまで存在感を示すようになったのか、進化の過程を見ていこう。
93年、シャネルはラ・ショー・ド・フォンで主に外装を手掛けていたファクトリー、G&Fシャトランの経営権を引き継いだ。以来、シャネルのタイムピースはこのファクトリーで製造されている。ここを拠点としてセラミックの技術を進化・熟成させ、その成果というべき「J12」がデビューするのが2000年。その後もこの自社ファクトリーの拡充を進め、現在ではセラミックコンポーネンツの完全内製化を実現するほか、ジュエリーセッティングも手掛け、さらにムーブメントの開発やアッセンブリーを行う設備も備えている。
開発に5年の歳月を費やし、16年にシャネル初の自社製キャリバーとして発表され、「ムッシュー ドゥ シャネル」に搭載された「キャリバー 1」は、このファクトリーから生まれたものだ。ジャンピングアワーとレトログラードミニッツを備えたこのキャリバーは、クリエイションスタジオのデザインを元に、オートオルロジュリー部門が設計・開発を手掛け、同社らしいデザインが光る。これを皮切りに、昨年発表された「J12 ダイヤモンド トゥールビヨン」に搭載された「キャリバー 5」まで、これまで五つの自社製キャリバーが誕生している。
「キャリバー 1」が発表されたとき、コンポーネンツの主要サプライヤーとして、ローマン・ゴティエの名が明かされた。同社は、精密金属加工のエンジニアとしてキャリアをスタートさせたローマン・ゴティエによって05年に設立された。彼は自身のウォッチブランドの構想を論文として書き上げMBAを取得するなど、一般的な時計師とは一線を画したスタンスを取る。フュゼチェーン式コンスタントフォースなどの複雑機構への評価に加え、当初からコンポーネンツの精密加工のクオリティーの高さが注目を集めた。シャネルは11年より同社に資本参加している。