今春、ウォッチズ&ワンダーズに合わせてジュネーブ市内で開催されていた独立時計師アカデミー(AHCI)の発表会場に、今や世界の時計愛好家注目の的となっている独立時計師、浅岡肇氏を訪ねたとき、彼が設立した会社、東京時計精密が全面サポートすることを決めた新しい時計師として片山次朗という人物を紹介された。その手首には、ラウンドケースに三つの窓を備え、ジャンピングアワー、分、秒表示を割り当てたユニークな時計があった。それが、片山氏自身のブランド「大塚ローテック」の「7.5号」というモデルだった。
片山氏は1971年、東京の生まれ。トヨタの系列会社でカーデザインからスタートし、プロダクトデザイナーとして独立、2008年にはカメラレンズでグッドデザイン賞を受賞している。この頃、卓上旋盤を入手し、見様見真似で時計製作に手を染め、12年からネット上で自身の時計の販売を始める。ブランド名は、工房のある豊島区大塚と、ハイテクではないローテックとを組み合わせた。
「電子機器ではないアナログなもの、昔の工作機器や町工場などに引かれることが多い」という。
「7.5号」を東京時計精密のスタッフが購入したことが縁となり、それまでほとんど交流のなかった浅岡氏に出会うと、「一緒にやりませんか」と誘われトントン拍子に話が進んだという。
以前、筆者が浅岡氏に取材した際、「今の若手は執念が足りない」と辛辣だった。片山氏は若手ではないし、実績のあるベテランだが、もの作りに厳しい浅岡氏が認めたことで、俄然興味が湧いてくるではないか。お互い、時計一筋ではなく、プロダクトやグラフィックなどの別の分野から時計に入っていった点や、自分が作りたいものを脇目もふらず形にしていることも共感し合えるポイントだったかもしれない。
昨年までは全て片山氏一人で製作にあたっていたが、現在は東京時計精密のスタッフや機器のサポートも得て製作を進めている。今後はダブルレトログラード時分針機構の「6号」のアップデート仕様ほか、自身が設計したムーブメント搭載モデルも視野に入れている。
「クラシックな時計はあまり知らないですし、外を見過ぎないように、流されないようにしながら、自分がいいと思うトンがった、楽しくて見せびらかしたくなるモデルを作りたい」
大塚ローテック、ちょっと目が離せなくなりそうだ。