注目すべき日本発の新興ブランド

腕時計における不朽の価値とは? ミュージシャン兼ウォッチジャーナリストのまつあみ靖が、ハイウォッチメイキングの世界をナビゲートする連載第12回。もの作りやデザインという観点から、愛好家の興味を引く日本発の新興の2ブランドを紹介する。

腕時計における不朽の価値とは? ミュージシャン兼ウォッチジャーナリストのまつあみ靖が、ハイウォッチメイキングの世界をナビゲートする連載第12回。もの作りやデザインという観点から、愛好家の興味を引く日本発の新興の2ブランドを紹介する。

大塚ローテック7.5号」自動巻き、ケース径40mm、SSケース×カーフストラップ、日常生活防水、297,000円
ムーブメントを覆うケース上面に三つの窓を備え、10時位置にジャンピングアワー、2時位置にディスク式分表示、6時半位置に秒表示を備える。MIYOTA製キャリバーに自社製モジュールを重ねている。
「大塚ローテック7.5号」自動巻き、ケース径40mm、SSケース×カーフストラップ、日常生活防水、297,000円。
※ネット上で不定期で、抽選販売。次回予約受付10月16日~11月10日、当選発表11月13日。11月24日より順次発送予定。
東京時計精密 TEL 03-5981-9491 www.otsuka-lotec.com/

今春、ウォッチズ&ワンダーズに合わせてジュネーブ市内で開催されていた独立時計師アカデミー(AHCI)の発表会場に、今や世界の時計愛好家注目の的となっている独立時計師、浅岡肇氏を訪ねたとき、彼が設立した会社、東京時計精密が全面サポートすることを決めた新しい時計師として片山次朗という人物を紹介された。その手首には、ラウンドケースに三つの窓を備え、ジャンピングアワー、分、秒表示を割り当てたユニークな時計があった。それが、片山氏自身のブランド「大塚ローテック」の「7.5号」というモデルだった。

片山氏は1971年、東京の生まれ。トヨタの系列会社でカーデザインからスタートし、プロダクトデザイナーとして独立、2008年にはカメラレンズでグッドデザイン賞を受賞している。この頃、卓上旋盤を入手し、見様見真似で時計製作に手を染め、12年からネット上で自身の時計の販売を始める。ブランド名は、工房のある豊島区大塚と、ハイテクではないローテックとを組み合わせた。

「電子機器ではないアナログなもの、昔の工作機器や町工場などに引かれることが多い」という。

「7.5号」を東京時計精密のスタッフが購入したことが縁となり、それまでほとんど交流のなかった浅岡氏に出会うと、「一緒にやりませんか」と誘われトントン拍子に話が進んだという。

以前、筆者が浅岡氏に取材した際、「今の若手は執念が足りない」と辛辣だった。片山氏は若手ではないし、実績のあるベテランだが、もの作りに厳しい浅岡氏が認めたことで、俄然興味が湧いてくるではないか。お互い、時計一筋ではなく、プロダクトやグラフィックなどの別の分野から時計に入っていった点や、自分が作りたいものを脇目もふらず形にしていることも共感し合えるポイントだったかもしれない。

昨年までは全て片山氏一人で製作にあたっていたが、現在は東京時計精密のスタッフや機器のサポートも得て製作を進めている。今後はダブルレトログラード時分針機構の「6号」のアップデート仕様ほか、自身が設計したムーブメント搭載モデルも視野に入れている。

「クラシックな時計はあまり知らないですし、外を見過ぎないように、流されないようにしながら、自分がいいと思うトンがった、楽しくて見せびらかしたくなるモデルを作りたい」

大塚ローテック、ちょっと目が離せなくなりそうだ。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。