昭和天皇も愛でた名機のDNAが100年の時を経てよみがえる

シチズン

シチズン

この「16型」懐中時計のDNAを受け継ぎつつ、100周年を記念して現在の技術でアップデートした手巻き懐中時計が、今秋冬発売される。オリジナルより存在感を増した43.5㎜のケースに、新設計のCal.0270を搭載。シチズンは2021年に「ザ・シチズン」の新たなメカニカルモデルをローンチするにあたり、2012年にグループ傘下となったスイスのハイエンド・ムーブメントサプライヤー、ラ・ジュー・ペレ社に技術者を送り、そこから得た知見を生かしてCal.0200を完成させた。シチズンの機械式時計の意欲的な幕開けとして高い評価を得たこのキャリバーで培ったノウハウが、Cal.0270にも投入されている。フリースプラング式のテンプを採用し、平均日差-3~+5と高い精度を誇る。通常5姿勢で検査するところ、これは完成品の状態で6姿勢、17日間に及ぶ検査を実施し、信頼性を高めている。加えてコート・ド・ジュネーブ、ペルラージュなどの装飾仕上げや、ダイヤカットによるミラー仕上げの面取りなど、審美性にも意識が行き届いている。

文字盤は、電気的な処理によって立体的な加工を施す電鋳技法により、和紙を彷彿させる独特な質感に仕上げ、さらに塗膜をかけて研磨し、再度艶消し膜をかけ、奥行きを持たせた。インデックスのアラビア数字のフォントは、オリジナルを踏まえたものだが、文字盤の質感と相まって、わずかに浮かび上がって見えるのも味わい深い。

ケース素材にはチタニウム合金を採用。耐傷性を高めるデュラテクト加工を施したスーパーチタニウムは、シチズンを象徴する一つだが、あえてこれを用いなかったのは、経年変化も楽しみながら、この時計と長く付き合って欲しいという思いが込められている―というのが筆者の見立てである。

1世紀前の品がインスピレーションソースとなり、最新の技術を詰め込み、次の100年を刻んでいく―そんな温故知新的な味わいと価値を感じてみたい。

まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。

※『Nile’s NILE』2024年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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