おひつじ座の構成
おひつじ座は主にαからδまでの四つの星で構成されている。α星のハマルは2等星で、おひつじ座を代表するオレンジ色の星だ。ハマルはアラビア語で羊の頭を意味している。地球からの距離は66光年。光の速さで66年かかる距離だ。β星のシェラタンは、ハマルに次ぐ明るさの白い星で、距離は60光年。γ星のメサルティムは一見一つの白い星に見えるが、実は同じ明るさと色の星が二つならんだ「二重星」だ。小型の望遠鏡があればこの見事な双子の星を楽しむことができるだろう。δ星のボテインはアラビア語で腹部の意味を持ち、おひつじ座の胴体部分を飾るオレンジ色の4等星だ。
おひつじ座が見える時期と探し方
おひつじ座は11月の22時頃に南の空高くに見える「秋の星座」だ。おひつじ座を探すときの1番の目印は、「おうし座のすばる(プレアデス星団)」と「ペガスス座の四角形」の間にあるα星のハマルだ。秋の夜空にすばるを見つけたら、そこから20度(手をまっすぐ伸ばして作った握り拳2個分)ほど西を見てみよう。晴れていればハマルが見つかるはずだ。ハマルとその周辺の星を結んでできる、「へ」の字を裏返しにしたような星のならびが、おひつじ座の頭部になる。星座絵では頭部からδ星ボテインにかけて、羊が横たわるような姿勢になっている。毎年7月頃に明け方の東の空に見え始め、3月頃には日没後西の空にすぐに沈んで見えなくなる。
おひつじ座にまつわる雑学
おひつじ座はあまり目立つところのない星座で、特に胴体部分には明るい星がほとんどない。一説によれば、これはギリシャ神話に登場する黄金の羊が、自ら毛皮を脱いで人間に渡した後に星座になったからだという。もしそのとき毛皮を渡していなかったら、今頃おひつじ座は金色に輝く明るい星で埋め尽くされていたことだろう。なお、この金色の毛皮については、黒海沿岸の地域でかつて川から砂金を採るために羊の毛皮が使われていたことに由来するという説もある。
羊の毛皮を川底に置いておくと、羊毛に砂金がびっしりと付着して、まさに黄金の毛皮となる。これを焚き火で燃やし、灰を1100度の高温にまで加熱すれば、金を溶かし出すことができるわけだ。このような毛皮による砂金採取を通じた人々の営みが、もしかしたらギリシャ神話の黄金の羊伝説を生み出したのかもしれない。
さまざまな形で富をもたらしてくれる羊と人との関わりは、なかなかに奥が深そうだ。
花山秀和 はなやま・ひでかず
1977年、福岡県生まれ。東京大学大学院にて博士号取得後、石垣島天文台研究員などを経て2022年より現職。九州沖縄最大の口径105㎝むりかぶし望遠鏡による天文学の広報・教育・研究活動に従事。23年に天文学振興財団古在由秀賞を受賞。
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※『Nile’s NILE』2024年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています