現代美術と羊
ヘルマン・ニッチェの世界

現代美術家
ホルモン関根

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ホルモン関根

美術

羊特集、現代美術と羊、ヘルマン・ニッチェの世界
ホルモン関根氏が描いたニッチェ「OMシアター」のイメージイラスト。
参考資料/www.nitsch.org

ヨーロッパにおける羊の意味と絵画

十二支の一つである羊は、ルネッサンス以降のヨーロッパ絵画にたびたび登場するモチーフだ。中国で生まれた干支とは違い、ユダヤ教、キリスト教に由来することは言わずもがな。迷える子羊よ……で知られるように、キリスト教では、民は羊に、キリストは羊飼いに例えられている。

またユダヤ教では「過越の子羊」の逸話が出エジプト記にあり、その祝祭日にほふられた子羊を家族みなで食することは欠かせないイベントの一つだ。そのため、羊やその群れが絵の背景に描き込まれたり、16世紀から17世紀の画家エル・グレコの「羊飼いの礼拝」のように、羊飼いをモチーフにした作品が数多く描かれてきている。現代美術においても、一つのメタファーとして重要な立ち位置を占めていることは言うまでもない。

ヘルマン・ニッチェとOMシアター

羊を使った作品で有名なものとしては、ヘルマン・ニッチェとダミアン・ハーストがまず思い浮かぶ。

ヘルマン・ニッチェは1938年オーストリア・ウィーンに生まれ、グラフィックデザインを学ぶ。最初は抽象画を描いていたが、60年代になってパフォーマンスを始める。ニッチェの代表作と言えば、「OMシアター(Orgies – Mysteries Theatre)」であろう。観客の五感すべてに訴える6日間の総合舞台芸術として、57年から構想が練られ、60年にウィーンで試演。しかしその過激さゆえ、何回かの裁判、収監3回という散々な結果に終わってしまう。なにしろそのパフォーマンスとは、子羊の皮を剥いで解体し、白い布に内臓や血をぶちまけるという、何とも言いがたい壮絶な内容なのだ。

しかし62年にはウィーンのアパートメント・ミュールで9時間にわたり上演、「アクション1」として彼の歴史に刻まれることになる。「OMシアター」とは古代ギリシャの酒神ディオニッソス(ローマ神のバッコス)の“乱痴気騒ぎ祭り”と“神秘的な劇場”といったような意味で、本人いわく「存在の歓喜の美的儀式」なのだそうだ。最初はニッチェ自身が羊の血を浴びたりしていたが、評判をよぶにつれ参加者たちも演じるようになる。彼ら(女性もいる)は全裸になり、羊の内臓や血を体中に塗りたくられ 、キリストの磔刑を模して十字架に括られ行進する。上演中は楽団がニッチェ自ら作曲した音楽を演奏、他の参列者はみな白い服を着て血を浴び 、最後はみなで祝宴を行い、残った数々の血に染まったシーツや服や十字架など、遺留品すべてをアート作品に仕立て上げてしまうのだ。 

71年にはオーストリア郊外のプリンツェンドルフ城を購入、会場をここに移し、パフォーマンスは計100回以上も上演された。過去には何度も逮捕されたりしたが、本国でも徐々に認知されるに至り、95年にはウィーン国立歌劇場の美術と舞台監督も委嘱されている。もちろん現代美術界では世界を代表するアーティストの一人でもあり、ドクメンタを始め、シドニー・ビエンナーレ、2008年には横浜トリエンナーレにも招待された。

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ラグジュアリーとは何か?

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