宗教
アブラハムの宗教
イスラム教にも生贄際(イード・アル=アドハー)がある。
イブラヒーム(アブラハム)がみずから息子のイスマイール(イサクの異母兄イシュマエル)をアッラーに犠牲として捧げようとしたことを記念する祝祭だ。
『コーラン』において、イブラヒームの子を「大いなる犠牲」で贖い、祝福をあたえたのは、唯一神アッラーである。「イブラヒームに平安あれ」と。
ゆえに、雄羊は神への供物の最善のものと信じられてきた。『コーラン』はまた、「アブラハムの宗教」は純粋の一神教であり、ムハンマドの説いたイスラムは、その復活なのだと説いている。つまりムハンマドは、モーセやイエスなど神に選ばれた預言者のなかでも、アブラハムをダイレクトにうけつぐ「最高最後の預言者」なのである。
ユダヤ教、キリスト教とともに、イスラム教が「アブラハムの宗教」と呼ばれるゆえんである。
長年の念願かなって三宗教の聖地が共存するエルサレムや検問所を隔てたパレスチナ自治区を訪ねたのは6年前のことだったが、現在、神がアブラハムに与えると約束した地カナンで継続する大惨事は、唯一神の目にどう映っているのだろう。
大垣さなゑ おおがき・さなえ
1957年、富山県生まれ。金沢大学卒業。歴史小説『花はいろ―小説とはずかたり』(まろうど社)で作家活動を開始。著書に『夢のなかぞら―父 藤原定家と後鳥羽院』『後月輪東の棺(ぱんどらのはこ)』『征韓―帝国のパースペクティヴ』(東洋出版)。
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※『Nile’s NILE』2024年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています