MONOLITH ミニマリズムの旗手を起用した独自の世界観
スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』に、漆黒の謎の物体が登場する。その名は、モノリス。これにインスパイアされたブランド&モデル名を持ったタイムピース「モノリス」が、この6月にベールを脱いだ。これまで多くの時計ブランドのOEMや、企画からアフターサービまでを手掛け、技術力に定評のある群馬精密が世に問う意欲作だ。監修したのは、ミニマリズムの旗手とうたわれ、国際的な建築、デザイン賞を多数受賞している窪田勝文氏。氏が目指したのは、単に無駄を省いてシンプルにすることではなかった。
「今まで私が訪れた名建築は、そのミニマルな空間に身を置くと心が安らぎ、チカラが湧いてくるような感覚があった。特に簡素とも言える日本の伝統建築には、人間の内面と自然を寄り添わせる美しさがある。それこそがミニマリズムのチカラだと思う。こうした経験を通じて、私が建築家として培ってきたものは、時計のデザインにも生かすことができる。無の境地を極めたとき、人知を超えたものが生まれるのだ」
プロダクトデザイナーが手掛ける時計の多くがそうであるように、ラグを排したピュアでソリッドなラウンドケースは、マットブラックに仕上げられ、控えめにインデックスを配置したフランジからダイヤルまでもブラック。サファイアケースバックもスモーキーなブラック加工が施されている。ミニマルを極めることで、無限の広がりや、ある“境地”とでも言うべき感覚を味わえるタイムピースかもしれない。9月からメテオライト(隕石)文字盤タイプが登場したことも付け加えておこう。
今、日本のもの作りは世界から熱い視線を浴びている。タイムピースの世界でも、こうした動きが活発化してきたことを大いに歓迎したい。
まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。
※『Nile’s NILE』2023年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています