今や世界に名をはせる、日本発のマニュファクチュールブランド、グランドセイコー。なかでも今回紹介する「エボリューション9コレクション」は、飽くなき挑戦を続けるグランドセイコーの“今”を語りかける時計である。
特筆すべきはまずそのスタイルだろう。1967年発表の名品「44GS」で確立した、三つのデザイン方針と九つのデザイン要素からなる伝統的な“セイコースタイル”を踏襲してきた。その新解釈となったのが、2020年に登場した「エボリューション9スタイル」である。「審美性」「視認性」「装着性」を追求し、従来のセイコースタイルから、幅広の時針やヘアラインを主体にした低重心のケース、厚みのあるブレスレットなどの細部に新ルールを反映。グランドセイコー次世代のデザインと呼ぶにふさわしい、厳かでありながらもモダンで洗練されたスタイルが生み出されることとなった。
同様に、搭載ムーブメントにおいても、これらの時計にはグランドセイコー最先端の歩みが投影されている。「SLGA023」にはキャリバー9RA5、「SLGA019」にはキャリバー9RA2の、二つの最新スプリングドライブムーブメントを搭載。前者はグランドセイコー60周年の20年に、後者はその翌年の21年に登場したキャリバーだ。どちらのキャリバ―も、従来の厚さに比べ0.8mmの薄型化を達成しながら、120時間のロングパワーリザーブを実現。もちろん、堅牢性、耐久性、耐衝撃性を確保するなど、そこには同社渾身(こんしん)の技術が注がれている。これらのムーブメントもまた、先述の新デザインと同じように、「正確で、見やすく、美しい」という腕時計の本質に真摯(しんし)に向き合い、研究・開発を続けてきたグランドセイコーの、新たなる布石となった存在でもあるのだ。
そしてこれらの時計を彩るのは、繊細な型打ちダイヤル。「SLGA019」が描くのは、スプリングドライブモデルの一貫製造を担う「信州時の匠工房」から東南に位置する諏訪湖の水面である。早朝の静寂のなかに見る穏やかなさざ波が、凹凸の型打ち模様により再現されており、その立体感が何とも美しい。対して「SLGA023」のモチーフとなったのは、日本近海を流れる海流の躍動感。海流がぶつかり合うダイナミックな波の姿を、同じく繊細な型打ち模様で表現した。ともに日本の自然美をテーマにしてきたグランドセイコーならではの意匠であり、静と動の異なる表現が、多くを語らずとも存在感にあふれている、揺るぎなき美意識をのぞかせることだろう。
かつこれらの時計は、角度によって実にさまざまな表情を見せてくれる。ダイヤルの型打ち模様はもちろん、ケースやブレスレットに施されたヘアラインと鏡面のコントラストが織りなす奥深き趣は、職人による丁寧な仕上げがあってこそのたまものである。清廉の色彩を装いに取り入れたいこれからの季節、グランドセイコーならではの品格が手元を上質に彩るに違いない。
●セイコーウオッチお客様相談室
TEL 0120-302-617