彼が手がけた「下北沢の家」では、クライアントが「ギャラリーのように住みたい」という要望を受け、アパレル関連の会社を経営するクライアントの個性的なコレクションに負けない建築の力強さを追求した。建物の外側を4枚のコンクリート壁が取り囲み、広々とした空間は素材の表情を豊かに表現しつつ、アートや生活の邪魔をしない。
井上さんは、住宅は「料理」ではなく「器」であり、主役は住み手の暮らしであると考えている。クライアントが何を求め、どのように住まいたいかを共に追求するのが建築家の仕事であり、その中で住み手の精神性が反映されると語る。
自らも東京出身で都会の新築住宅やビルにあまり魅力を感じなかった井上さんは、古びた町屋や京都の風景が好きで、古いものが持つ痕跡が人間よりも長く残ることを感じている。彼がコンクリート素材を好むのも、その強固な特性により「残る」素材であるためだ。
近年は、より自然に近く壊れにくい建築を目指し、木と鉄筋コンクリートなど混構造の住宅も手がけている。時間の流れや自然の脅威に耐えうる強固なものが、未来に残る要件だと考えている。
彼が考える豊かな暮らしは、老人と子どもがつながり、古いものと新しいものが混在して相互に作用することで生まれると述べている。今あるものを大切にし、未来を見据えつつ、精神性を持って建築に向き合い続けることが、彼にとって豊かな生活の条件であるという。
●井上洋介建築研究所
東京都中野区江古田2-20-5 3F
TEL 03-5913-3525
www.yosukeinoue.com
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※『Nile’s NILE』2024年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています