秋茄子の料理
さて、今回紹介してくれた2品のうち、緑なすの料理は「グリーンカレーのイメージ」という遊びのある品。一方の鹿の料理は、フランス料理をまっすぐに感じる品だ。
緑なすの料理では、なすと万願寺唐辛子、紫唐辛子を焦がすくらい強く直火で焼き、セルフィーユ、エストラゴンなどのハーブとココナツミルクで作るソースを添える。
旨みをプラスするためにあおりいかのスライスを挟むが、主役は野菜。パクチーの若い芽やニラの花などをたっぷりとのせ、香り高く複雑な風味を作り出す。
口にするとなすの旨み、とろみ、香ばしさが肉厚な唐辛子類と重なり、ハーブによる爽やかかつエキゾチックな風味、ソースに入るココナツミルクのコクと混じり合う。食べると一気に東南アジアに連れて行かれる、そんな印象の料理だ。
一方の鹿の料理であるが、鹿は髙橋氏が得意とする素材。
「今までいろいろな地域の鹿を試してきましたが、北海道白糠(しらぬか)で、鹿の狩猟と販売を手掛ける『馬木葉(まきば)』さんのものに行き着きました」。
その鹿のシンシンをローストし、鹿のソース、80度で8時間加熱した巨峰(ジューシーかつ熱々、軽く凝縮感のある味となる)、じっくりと加熱したシルキークイーンなどを添えた。また、「鹿の火入れも、試行錯誤の上で生み出した独自の方法としています」と、目で見えない部分でもオリジナリティーを追求する。
こうして、食べる人をハッとさせる料理を次々と作る髙橋氏。「期待をいい意味で裏切り続けたい」という。
今後の展望についてたずねると、「世界に出たいです。海外の人に自分の料理を知ってほしいという目標は、ずっとあります」という。
「ただ自分は職人的な料理人。積極的な発信は得意ではないのですが、できるだけ自然な形で自分の料理を広く伝えられるよう目指しています」
あくまでも料理のクオリティーで勝負し、派手な仕掛けはしない。そんな誠実な髙橋氏の料理人としてのあり方に、多くの人が引かれる。それは世界に出てもきっと同じだろう。
髙橋雄二郎 たかはし・ゆうじろう
1977年福岡県生まれ。大学卒業後、調理師専門学校に進みフランス料理の道を選ぶ。都内で修業したのち27歳で渡仏。ミシュラン三つ星店、ビストロ、ブーランジュリー、パティスリーと、幅広く経験を積む。帰国後は「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」のシェフなどを経て独立。2015年「ル スプートニク」を開業。
●ル スプートニク
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※『Nile’s NILE』2021年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています