秋茄子の季節 1 旅を始めたフランス料理

六本木の大通りから一本入った静かな場所にあるフランス料理店「ル スプートニク」。オーナーシェフの髙橋雄二郎氏の作る料理は、伝統に基づくブレない味と、独自性を併せ持つのが特徴。今回は皮の色素ナスニンに抗酸化作用があるなすを用いた季節の料理と、スペシャリテの鹿の料理を紹介してくれた。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

六本木の大通りから一本入った静かな場所にあるフランス料理店「ル スプートニク」。オーナーシェフの髙橋雄二郎氏の作る料理は、伝統に基づくブレない味と、独自性を併せ持つのが特徴。今回は皮の色素ナスニンに抗酸化作用があるなすを用いた季節の料理と、スペシャリテの鹿の料理を紹介してくれた。

秋茄子の料理

ル スプートニク、鹿肉のシンシンをロースト
鹿肉のシンシン(内ももよりさらに内側にある部位)をローストし、煮詰めた鹿のだしと赤ワインがベースのソース、じっくりと熱してみずみずしさと凝縮感を併せ持つ巨峰などを添えた。鹿肉が得意な髙橋氏の代表的料理。

さて、今回紹介してくれた2品のうち、緑なすの料理は「グリーンカレーのイメージ」という遊びのある品。一方の鹿の料理は、フランス料理をまっすぐに感じる品だ。

緑なすの料理では、なすと万願寺唐辛子、紫唐辛子を焦がすくらい強く直火で焼き、セルフィーユ、エストラゴンなどのハーブとココナツミルクで作るソースを添える。
旨みをプラスするためにあおりいかのスライスを挟むが、主役は野菜。パクチーの若い芽やニラの花などをたっぷりとのせ、香り高く複雑な風味を作り出す。

口にするとなすの旨み、とろみ、香ばしさが肉厚な唐辛子類と重なり、ハーブによる爽やかかつエキゾチックな風味、ソースに入るココナツミルクのコクと混じり合う。食べると一気に東南アジアに連れて行かれる、そんな印象の料理だ。

一方の鹿の料理であるが、鹿は髙橋氏が得意とする素材。
「今までいろいろな地域の鹿を試してきましたが、北海道白糠(しらぬか)で、鹿の狩猟と販売を手掛ける『馬木葉(まきば)』さんのものに行き着きました」。

その鹿のシンシンをローストし、鹿のソース、80度で8時間加熱した巨峰(ジューシーかつ熱々、軽く凝縮感のある味となる)、じっくりと加熱したシルキークイーンなどを添えた。また、「鹿の火入れも、試行錯誤の上で生み出した独自の方法としています」と、目で見えない部分でもオリジナリティーを追求する。

こうして、食べる人をハッとさせる料理を次々と作る髙橋氏。「期待をいい意味で裏切り続けたい」という。

今後の展望についてたずねると、「世界に出たいです。海外の人に自分の料理を知ってほしいという目標は、ずっとあります」という。

「ただ自分は職人的な料理人。積極的な発信は得意ではないのですが、できるだけ自然な形で自分の料理を広く伝えられるよう目指しています」

あくまでも料理のクオリティーで勝負し、派手な仕掛けはしない。そんな誠実な髙橋氏の料理人としてのあり方に、多くの人が引かれる。それは世界に出てもきっと同じだろう。

  • ル スプートニク、店内のガラスの格子窓は髙橋氏自らがデザイン
    店内のガラスの格子窓は髙橋氏自らがデザイン。昨年の内装リニューアル時に取り入れた。
  • ル スプートニク、本棚には世界中のシェフによる料理書が並ぶ
    「昔から本を読むのが好き」という髙橋氏。本棚には世界中のシェフによる料理書が並ぶ。
ル スプートニク 髙橋雄二郎氏

髙橋雄二郎 たかはし・ゆうじろう
1977年福岡県生まれ。大学卒業後、調理師専門学校に進みフランス料理の道を選ぶ。都内で修業したのち27歳で渡仏。ミシュラン三つ星店、ビストロ、ブーランジュリー、パティスリーと、幅広く経験を積む。帰国後は「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」のシェフなどを経て独立。2015年「ル スプートニク」を開業。

●ル スプートニク
東京都港区六本木7-9-9
TEL 03-6434-7080
le-sputnik.jp

※『Nile’s NILE』2021年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。