“いいとこどり”の“桃の木流”

『ミシュランガイド東京』では2008年度版から12年連続で星を獲得する、まさに東京を代表する中国料理店「桃の木」。だが、料理人・小林武志氏はシンプルなザ・職人といったたたずまいを決して崩すことはない。調理場での無駄のない動きにも、飾らない言葉にも、経験に裏づけられた静かな自信がみなぎっている。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

『ミシュランガイド東京』では2008年度版から12年連続で星を獲得する、まさに東京を代表する中国料理店「桃の木」。だが、料理人・小林武志氏はシンプルなザ・職人といったたたずまいを決して崩すことはない。調理場での無駄のない動きにも、飾らない言葉にも、経験に裏づけられた静かな自信がみなぎっている。

御田町 桃の木。スペシャリテ「アヒルの舌の山椒、唐辛子、炒め」
桃の木のスペシャリテ「アヒルの舌の山椒、唐辛子、炒め」。中国では高級食材である合鴨の舌が、一皿に約20羽分使用される贅沢な一品。スパイシーに調理された合鴨の舌は、小さいながらコラーゲンが含まれている。スナック感覚で食べ飽きない一品。

独自の中国料理が多くの人を魅了する

小林武志氏の料理のベースは広東料理。だが、厨房(ちゅうぼう)を見せてもらうと、深くて片手の取っ手のついた北京鍋や、広東料理でしか用いられない針金を編み上げたザーレン(油切り)など、調理器具もバラエティーに富んでいる。

「いろいろな中国料理を見てきたので、調理器具もジャンルにとらわれず、いいと思うものを集めています。調味料をディスペンサーに入れて並べているのは、店が小さくて狭いから。いわば、“桃の木流”ですね」

料理にも“桃の木流”が見て取れる。修業時代から年に一度は香港に行き、定点観測を続ける店や話題の店を食べ歩いているという小林氏。

今年は正月休みに香港に行き、年始から今、香港の中国料理界で注目されているトリュフを積極的に使うようになった。

「トリュフを桃の木流に、炒め物なら土っぽい香りのする大豆の発酵食品と混ぜて使ったり、前菜ならネギソースと合わせたりして、香りの相乗効果を狙っています。
うちでは『ワインに合う中国料理』というテーマでずっとやってきたので、ワインと同じく料理でも香りを重視しています。今までにない味と香りの料理を作る上で、トリュフは挑戦しがいのある食材です」

新しいものに挑戦する一方で、「アヒルの舌の山椒、唐辛子、炒め」など、長年作り続ける料理もある。合鴨の舌を2500度の超高温で5秒揚げ、香菜やディル、山椒(さんしょう)などと合わせて10秒ほど炒め、瞬間の香りをとらえる。北京料理の「爆」という調理法だが、食材は国産が一番と、合鴨の舌は日本の業者からずっと仕入れている。

御田町 桃の木。ルッコラ、紅芯大根、蒸し鶏をトリュフであえて
ルッコラ、紅芯大根、蒸し鶏をトリュフであえて。ネギやルッコラ、そしてトリュフと香りのある食材がおいしいハーモニーを奏でる。“ご近所”のフレンチの名店「コート ドール」のシェフ、斉須政雄氏からトリュフ業者を教わったそうだ。

『ミシュランガイド東京』で二つ星を獲得する「桃の木ブランド」が、国境を超えて韓国や台湾でも評価され、台湾の高雄に開業するホテルに「桃の木」を出店する話も進んでいるという。

決まれば、小林氏にとって日本と台湾を往復する、新しい生活の始まり。料理にもさらなる進化があるのでは、と期待してしまう。

枠にとらわれない、中国料理のいいものを集めた東京「御田町 桃の木」流。小林氏にしか生み出せない、独自の中国料理が多くの人を魅了する。

御田町 桃の木 小林武志氏

小林武志
1967年愛知県生まれ。辻調理師専門学校、同技術研究所で学んだ後、職員として8年間勤務。吉祥寺「知味 竹爐山房」「際コーポレーション」などを経て2005年、38歳の時に「御田町 桃の木」を開業。『ミシュランガイド東京』では二つ星を獲得。

●御田町 桃の木(現 赤坂 桃の木)
東京都港区三田2-17-29
オーロラ三田105
TEL 050-3155-1309
www.momonoki.tokyo
※桃の木は、以下住所の赤坂に移転しました
「赤坂 桃の木」東京都千代田区紀尾井町1-3 紀尾井テラス3F

※『Nile’s NILE』2019年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

1 2
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。