「料理は、人を幸せにする力があるんです」と門脇氏。「こんなことがありました。ある常連のご夫婦のお客さまが、ケンカ直後なのか、微妙な雰囲気で店に来られて最初はギクシャクしていた。それが料理とお酒を召し上がるうちにお二人がだんだん和やかになっていったのです。お帰りになるときは、手をつないでいらっしゃいました」。コースの2時間の間で、これほどまでに人の感情を変えることができる。それが料理、そして料理店の力なのだ。
さらに門脇氏は「料理は平和です。国境がありません」とも言う。たしかに、仮に政治的な対立をしている国があっても、その料理まで人は嫌いにならない。中国料理もフランス料理も日本料理も、国境を超えて楽しまれている。人をワクワクさせる。
「平和の祭典というと音楽やスポーツがありますが、料理もそこに加わる力が十分にあると思います。なので、料理人仲間の輪を広げて、平和の象徴としての料理の祭典を開きたい。いつか実現したいですね」
そんな料理を信じる力が、円熟を迎えた門脇氏をさらに前進させる。
門脇俊哉 かどわき・としや
1960年、北海道生まれ。六本木の高級割烹「越」に就職して料理の道へ。「つきじ植むら」湯島店、高輪茶寮店、「エスカイヤクラブ」新宿店、「鴨川」霞ヶ関店、東天紅系列の和食店「海燕亭」千葉スカイウインドウズ店で料理長を務めたのち、2000年に「麻布 かどわき」を独立開業。2006年に麻布内で移転。ミシュランガイド東京2020より三つ星。
●麻布 かどわき
東京都港区麻布十番2-7-2
TEL 03-5772-2553
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