古強者は語る

麻布十番で15年以上にわたり、着実な人気を獲得している「ピアット スズキ」。さりげない店構え、ぬくもりのある店内、そしてオーナーシェフの鈴木弥平氏による料理が評判だ。肩の力が抜けていながら、鮮やかな味わいにハッとする……。熟練の技と、食材に寄り添う優しい感覚の融合した料理が、お客をとりこにする。

Photo Satoru Seki  Text Izumi Shibata

麻布十番で15年以上にわたり、着実な人気を獲得している「ピアット スズキ」。さりげない店構え、ぬくもりのある店内、そしてオーナーシェフの鈴木弥平氏による料理が評判だ。肩の力が抜けていながら、鮮やかな味わいにハッとする……。熟練の技と、食材に寄り添う優しい感覚の融合した料理が、お客をとりこにする。

ハマグリの繊細な旨みを味わえる一品

今回紹介する「スパゲッティ 小ハマグリと青唐辛子のボンゴレ」(次ページ)は、小ハマグリをふんだんに使った一皿です。

「ボンゴレ・ビアンコ」といえばアサリですが、代わりにハマグリを使ったちょっと贅沢な仕立て。ハマグリの、お吸い物のような繊細な旨みが主役。独立開業前、20年ほど前に考案した品です。

アサリは旨みが力強いので、乾燥赤唐辛子の辛さが合うでしょう。でも旨みがデリケートなハマグリにそれは強すぎる。そこで、ジワッと穏やかな辛さで、爽やかさもあるフレッシュな青唐辛子を使っています。

せっかく日本にいるのだから、日本の食材の優しい風味に合った料理を作りたい。そんな気持ちが、私の料理のベースにあります。

調味料に関しても、私は昔から昆布や醤油を使っています。アワビを醤油、オリーブオイル、日本酒で炊くのも定番です。ただし、あくまでも隠し味。これらの調味料は、食べてみて気づかない程度のごく少量でも、口にした時ホッとする味に仕上がります。

使い始めたのは 20年以上前ですが、当時は「醤油を使うイタリアンなんで邪道」という考えが主流。先輩方に叱られそうだったので、誰にも言わず、ひっそりと使っていました(笑)。

お客様との対決で鍛えられました

私は19歳の時から4年間、「クチーナ ヒラタ」をオープンする前後の平田勝シェフのもとで働き、その後イタリアで4年間修業しました。
帰国後は、平田シェフの2店目「ヴィーノ ヒラタ」のシェフを任されました。27歳の時です。最初は、「イタリアで学んだことを発揮するぞ!」「現地を感じる料理を作るぞ!」と張り切っていました。

でも、日本の食材に寄り添った、シンプルで自由な料理を確立していた平田シェフが、結局、私の料理に対して「こう変えたらおいしい」と指図をやめない。お客様も年上の食べ慣れた方々で、いろいろ意見や注文を言ってくる。もう、自分が作りたい料理どころではありません(笑)。

しかし、それで鍛えられました。お客様の好みに合った料理を、即興で調節しながら作る。「対決」と言っては大げさですが、好みを投げてくるお客様に対して、気概を込めて応じるのが料理人の仕事。そこにやりがいを感じていました。

なので、独立後も提供スタイルはアラカルトとし、お客様ご自身が食事を組み立てる方式に。ただ、近年はすでに組まれたコースを望み、あまり好みは主張しないお客様が増えたので、コースが主流となっています。少し寂しい気もしますが、時代の流れなのでしょうかね。

ヴェローナで「呼ばれた」ナイフ

ここのところ、年に2回ほどイタリアに行っています。行けば街を散歩しますし、そんな中で目に入った厨房道具関係のお店には、やはり吸い寄せられてしまいますね。

このナイフも、3年ほど前にヴェローナで買ったものです。たまたま通りがかったのですが、コルテッレリア ファッツィーニという、かなり知られた包丁専門店だったようです。店先でこの赤い柄のナイフがパッと目に入り、呼ばれた気がして(笑)。
赤、白、黒の3色を12本ずつ、あるだけ買って帰り、「半年後に来るから」と、さらに用意しておいてもらいました。

コルテッレリア ファッツィーニのナイフ

肉用のナイフとして、イタリア料理店も含め、みんなフランスのラギオールのを使うでしょう? あれが個人的には受け入れられなくて(笑)。

イタリア製のいいのを探していたので、見つけた時は「これだ!」と思いました。赤い鮮やかな色と、スッとしたデザインがイタリアっぽい。テーブルに映えて、切れ味もよく、気に入っています。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。