ホテルには文化がある。
そのホテルの匂いといってもいいだろう。ホテルを利用する人たちとホテルが建てられている街の界隈性とが相まって、そのホテル独自の匂いを醸し出しているのだ。一流のホテルであるほど、人の流れと界隈性をブレンドして独自の文化に昇化し、心地良い空間を生み出している。
オランダのアムステルダムやシンガポール、日本の横浜や神戸のように、古くから港町として栄え、国内外から多くの人を迎え入れてきた街には、今のように多様性が叫ばれるずっと以前から、異なるバックグラウンドを持つ人々を受け入れ、互いの違いを理解し合い、許容し合って発展する、土地の玄関口としての文化がある。ホテルも街ではないにせよ、同様に国境や考え方の違いを超えて、さまざまな人を受け入れる玄関口としての懐の深さを持っている。地元の人も外から訪れた人も歓迎し、ひとときの非日常を味わい、旅や日々の疲れを癒やしてもらえるように丁重にもてなす。そこには街の象徴としての誇りがあり、ゲストをもてなすために考え尽くされているからこその落ち着きと洗練がある。だからホテルは、粋なのだ。
若い頃は一流のホテルに自分がそぐわない気がして落ち着かなかった。高層階のガラス張りの窓から街を見下ろし、良い眺めに浸るというより、所在なさがせりあがってくるのを感じた。それから時は流れ、年齢だけは一流ホテルにいてもおかしくはなくなったが、ホテルに行くならばそれなりに身なりを整えて、背筋を伸ばしていたいと思う。そして、ホテルの優雅な空間で、第二のホームのようにゆったりと振る舞い、当然のように一流のサービスを享受している大人を見ると、憧れていた自分を思い出す。
ロビーのカフェで会話に興じる外国人紳士は、久しぶりに日本を訪れて友との旧情を温めているのだろうか。上階のダイニングで美しくドレスアップしている女性を見ると、楽しみ方を知っている淑女だな、と感心する。しっとりとした静かな大人の時間が流れるバーでは、シングルモルトやカクテルに精通した、知的な御仁に出会えそうだ。おそらく彼らは、国内外のさまざまなホテルを訪れ、それぞれのホテルの文化を体感しているのだろう。そのうえで、お気に入りのホテルを見つけ、行きつけとしている。その姿が、粋なのだ。
ホテルにいると、これまで訪れたホテルでの思い出やそこで会った人たちとの記憶がよみがえり、また誰か新しい人との出会いや、物語が始まりそうな高揚感に包まれる。また、新しくオープンしたホテルにはその街や、訪れる国内外のゲストをもてなすための最新の文化が詰め込まれていて面白い。
そこで、ホテルの楽しみ方を知る大人のために、東京で去年から今年にかけてオープンした名ホテルを紹介したい。それぞれが持つ独自の文化や世界観を知り、ホテルで粋に過ごすための新たな行きつけを見つけてほしい。
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