門の先に、広大な敷地が広がる。三方を山に囲まれ、前方に海を望む、鎌倉の特徴的な地形である「谷戸」の一つを占める。ここに立つ洋館は、青い洋瓦の切妻屋根が特徴的。随所に和のデザインを取り入れた独特の外観が目を引く。
建物の歴史をたどると、元は加賀百万石の藩主として知られる前田利家の系譜、旧前田侯爵家の別邸。1890(明治23)年ごろ、15代当主・利嗣が土地を手に入れ建てた時は、「聴涛山荘」という名の和風建築の館だったそうだ。しかし約20年後に焼失。洋風に再建され、さらに関東大震災による倒壊を経て、新しい別邸が建てられた。洋風建物で、当地にかつてあった寺の名に因んで「長楽山荘」と呼ばれていたという。
今に残る洋館は、それを16代当主・利為が1936(昭和11)年に改築・完成させたものである。さらに第2次世界大戦後は、米軍による接収を経て、デンマーク公使や佐藤栄作が借りて別荘としたと伝えられる。佐藤が近くに住む川端康成と交流したほか、小林秀雄や永井龍男らが集い、また三島由紀夫が小説『春の雪』を執筆する際に取材で訪れるなど、作家たちとの縁を深めた。1983(昭和58)年に市に寄贈されて後、1985(昭和60)年に文学館に生まれ変わったのも自然の流れと言えよう。
●鎌倉文学館
神奈川県鎌倉市長谷1-5-3
TEL 0467-23-3911
鎌倉モダンの源流を行く 前編(鎌倉文学館)
鎌倉モダンの源流を行く 中編(旧華頂宮邸)
鎌倉モダンの源流を行く 後編(古我邸)