マサズパスタイムに篠原氏を訪ねると、時計製作の動機をそう語ってくれた。菊野昌宏氏の仕事を雑誌で目にしたことにも刺激を受けた。ランゲアワード参加が決まって以降、菊野氏から直接指導を受けたことも大きな経験になったという。
21年にマサズパスタイムに就職。社長の中島正晴氏は、ランゲアワードに輝いた若手の腕を見込んでオリジナルモデルのプロジェクトを任せ、2年を費やし23年秋に「那由他モデルA/B」の2型が完成する。「アンティークの店ですから、長く使える時計というのが社長から与えられたルール。アンティーク懐中時計のバランスやニュアンスは残しながら、現代的な要素とのハイブリッドを目指しました。ケースサイズは38㎜ぐらいをルールにしました」
23年モデルはスモールセコンド仕様の「A」が605万円、2針の「B」が297万円。申し込み多数により、抽選によって両モデルで計8本が製作された。「TOKI(刻)」に出品されるのは「那由他モデルA」の特別バージョン。スターリングシルバー文字盤のセンターに繊細な花模様の彫金が施され、針の形状やコンポーネンツの仕上げも、通常モデルと異なっている。
すでに世界的な評価を得ている日本の独立時計師やマイクロメゾンに伍して、この若手に世界の目利きがどんな判断を下すのか注目したい。気鋭の時計師の才能に投資、支援したい向きは、ぜひオークションにご参加を。
まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。
※『Nile’s NILE』2024年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています