ミシェル・パルミジャーニという時計師を語る際、しばしば「神の手を持つ」という枕まくら詞ことばが用いられる。
歴史的名品の修復から始め、レストア困難なモデルを蘇らせた。スイスのノバルティス製薬グループがその才能を見抜き、1996年には支援でパルミジャーニ・フルリエを設立。修復経験を活かし、自社でのマニュファクチュール体制を築き、時計業界での存在感を高めた。昨春のウォッチズ&ワンダーズで、70代になっても創作意欲は衰えず、「コロナ期間中には文献を研究し、新コレクションにも全ての意見を反映させています」と述べた。
コロナ禍中に発表された「トンダGT」と「トンダ PF」が好調だ。スポーティーでありながら控えめな美意識が人気の一因で、「スポーティーなモデルでも、ケースのエッジが立っているものは好みではありません。緩やかな角度で、優しいイメージを常に求めています」と強調。
また、2021年12月に発表された25周年記念プロジェクト「ラ・ローズ・カレ」では、伝説的な時計師ルイ︲エリゼ・ピゲが製作したキャリバーを完全修復し、最高峰の技術者による“ドリームチーム”が完成。美意識と技巧が光る仕上がりに感嘆の声が上がっている。
それから「レ・ローズ・カレ グラン・フー コレクション」という特別プロジェクトが発表された後、最近、パルミジャーニ氏の73歳の誕生日に「ラルモリアル」が登場。
1890年に製作されたミニッツリピーター・クロノグラフキャリバーを修復し、パーペチュアルカレンダーとムーンフェイズを追加。外装の仕上げには再び“ドリームチーム”が結集し、繊細なエングレーブ、手彫金、グランフーエナメルが施された。このデザインは、イタリア北部のマントヴァにあるルネサンス期の名建築、テ宮殿の「巨人族の間」のモザイクから着想を得ている。歴史とイノベーションを融合させたアートピースで、ミシェル・パルミジャーニ氏の創造性に改めて敬意を表したい。
まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。
※『Nile’s NILE』2024年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています