写真映え

食語の心 第57回 柏井 壽

食語の心 第57回 柏井 壽

食後の心 第57回

2017年度の流行語大賞に、「忖度(そんたく)」という難解な用語とともに選ばれたのが、「インスタ映え」。
SNSの一つであるインスタグラムに投稿する際、見栄えのいい写真が好まれることを「インスタ映え」と呼ぶようで、それが流行語大賞に選ばれるくらいだから、よほど蔓延しているのだろう。

では、どういう写真が映えるのかと言えば。
列挙すると、派手なもの。目立つもの。今の言葉でいうカワイイもの。そして羨ましがらせるもの。なのだそうだ。

なるほどと納得する。インスタグラムだとかツイッターはやらないが、フェイスブックは始めてから、もう5年近くになる。友だちの投稿を見ていると、確かに先に挙げた条件に当てはまる写真には「いいね!」が多く集まる。

そしてそれらの写真の特徴として、偶然ではなく、最初から見栄えを意図して撮られたものだということが挙げられる。
ただイルミネーションを撮るのではなく、それと同化するようなポーズを取ったりとか、小道具を組み合わせることで、トリッキーな写真に仕立てたりする。
それがウケるとどんどんエスカレートしてゆくのも、インスタグラムの特徴なのだと聞く。

料理写真などは、その典型だとされているのだが、撮る側だけでなく、撮られる側、すなわち料理人までもが、インスタ映えを意識して、料理を作っていると聞けば、黙っているわけにはいかない。

僕の持論に「おいしい料理は必ず美しい」があり、器や盛り付けはもちろん、料理そのものが美しいのは、とても大切なことだと思っている。

例えば握り鮨。
熟達の鮨職人が握った鮨の美しさは他に類を見ない。ネタとシャリのバランス、握るときの力の入れ具合などが、一貫の鮨に反映され、食べるのが惜しいほどの美しさを見せる。

あるいは天麩羅専門店で出される天麩羅。盛り合わせではなく、一つひとつ順番に、目の前で揚げられる天麩羅もまた、名人が揚げるそれは、ため息が出るほど美しい。
さらには割烹店で出てくる八寸。季節のいっときを切り取ったかのような八寸は、食べるのが惜しいくらいに美しい。

しかしながらこういう美しさと、インスタ映えとは全く別ものだという。美しさより驚きが優先。

例えば鮨。白い丸皿の上に載っているのは、丸ごと一枚の板ウニ。スプーンが添えられた写真をよく見ると、その下にシャリが隠れている。
これを鮨と呼ぶべきかどうかは別にして「いいね!」がたくさん付くことは間違いない。

と、これを見たのかどうかは知らないが、似たような写真が投稿された。パフェのような器の底にシャリが敷かれ、その上にイクラが山盛りになっていて、器からあふれ出ている。僕などはこんな料理を前にすると、げんなりするだけだが、「食べたい!」というコメントが連続しているのだから、これもまたインスタ映え効果なのだろう。

こうして、一部の料理人たちは、味よりも質よりも、見栄えに力を注ぐようになる。それもメガ盛りや、常識外れの取り合わせなど、客を驚かせることで注目を集めようとする。バカげたことだと思うのだが、こういう店に長い行列ができたりするから、何とも悲しい話だ。

少しは下火になったようだが、山のようにローストビーフを積み上げた丼などがその典型だろう。食べるのは二の次とばかりに、出されるや否や、角度を変えて何枚も写真を撮る。肉の量を見せつけるように箸で持ち上げて、大口を開けた顔と一緒に自撮りする。
目的はほぼ達成したのだろう。半分以上も残して席を立つ。この繰り返しで店は大繁盛。これはもう料理屋とは言えない。

本末転倒という言葉は、こういうときのためにある。料理を食べることより撮ることを優先する。その結果、世の中にインスタ映えする料理ばかりが持てはやされることになる。若い人の間では、メガ盛りや珍奇な取り合わせが人気となり、まるでそれに対抗するかのように、年輩のグルメ族は、高級志向を強めることで、インスタ映えを狙う。
客の目の前で、トリュフを削って山盛りにする。フォアグラをミルフィーユにして金箔を載せる。希少なブランド牛を大きな塊のまま焼く。

シニアグルメは競ってそれを写真に撮る。日本の行く末は悲しい。

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!』(講談社)など著書多数。

※『Nile’s NILE』2018年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。