壮絶な超薄型競争

腕時計における不朽の価値とは? ミュージシャン兼ウォッチジャーナリストのまつあみ靖が、ハイウォッチメイキングの世界をナビゲートする連載第5回。「記録とは破られるためにある」と言うが、腕時計の薄型競争は近年熾烈を極め、次々と記録が更新され異次元のレベルに達したと言っても過言ではない。そんな中、彗星のごとく登場したリシャール・ミルの新作は、この戦いに終止符を打つのか?

Text Yasushi Matsuami

腕時計における不朽の価値とは? ミュージシャン兼ウォッチジャーナリストのまつあみ靖が、ハイウォッチメイキングの世界をナビゲートする連載第5回。「記録とは破られるためにある」と言うが、腕時計の薄型競争は近年熾烈を極め、次々と記録が更新され異次元のレベルに達したと言っても過言ではない。そんな中、彗星のごとく登場したリシャール・ミルの新作は、この戦いに終止符を打つのか?

  • リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」ケースバック リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」ケースバック
    ケースバックを見ると、ファンクションセレクターと、巻き上げ&時刻調整ホイールが、裏まで貫通しているのが分かる。搭載するキャリバーRMUP-01は、オーデマ ピゲ ル・ロックルとの共同開発で誕生したものだ。
  • リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」 リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」
    ケースは厚さ1.75mm。皮膚を思わせるほどの薄さ。ストラップを含む総重量も28.5gと超軽量。時計本体だけなら11.2gと、ストラップよりも軽い。横長のトノウシェープや、時計本体外周のスプラインネジなどにもブランドアイデンティティーが見て取れる。
  • リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」ケースバック
  • リシャール・ミル「RM UP-01 フェラーリ」

リシャール・ミルが「RM UP-01 フェラーリ」を発表したのが今年7月。そのケースは前王者より0.05mm薄い1.75mm。ほとんど100円硬貨に等しい。

自動車のインパネを着想源とする他に例のないレイアウト。薄さを追求するべく機構を横方向に分散させ、センター上部にディスク式の時分表示、その右にテンプをのぞかせ、左にはファンクションセレクター、その下に巻き上げと時刻修正用のホイールが並ぶ。

これまでの最薄タイトルホルダーは、ケースバックの一部が地板を兼ねる構造を採用したが、この新王者はケース内部にムーブメントを収める従来の方式にこだわった点も特筆したい。このキャリバーRM UP-01は1.18mmと、これも機械式としては世界最薄。

パワーリザーブは45時間。5000Gの加速度にも耐え得るほか、この薄さのケースで1気圧の防水性を備え、12kgの荷重テストもクリアし剛性も十分だ。

右下の跳ね馬のロゴは、フェラーリとのコラボレーション第1弾であることを誇らしく示している。このコラボも、ウォッチシーンの一つの伝統というべきものだ。1993年から2004年までジラール・ぺルゴがこの大役を担い、パネライ、ウブロへと移り、今度はリシャール・ミル。超薄型とフェラーリコラボという時計業界を貫く二つの流れが交わったところに、この「RM UP-01 フェラーリ」が誕生したことも興味を引く。

生産本数は150本と思いのほか多い。望めば入手できるかも、と夢を抱かせてくれるが、予価は2億4750万円。フェラーリの現行新車価格をはるかに上回ることにもご留意を。

まつあみ靖(まつあみ・やすし)
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著書に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』『再会のハワイ』(ともに小学館)ほか。

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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