洋服、靴、カバン、そしてクルマ…… ビスポークという楽しみ
世界でただひとつ、自分のために作られたものを持つのが夢、というひとは多いのでは。有名なのは歌手であり女優でもある英国人、ジェーン・バーキンのためにエルメスが作ったバーキンバッグ。クルマでも世界に1台しかないものに乗れたら、すてきかもしれない。ロールス・ロイスでは、そんな嗜好を持つひと向けに、特注のクルマを作る「ビスポーク」プログラムを提供している。
ロールス・ロイスの「ビスポーク(特別あつらえ)プログラム」がスタートしたのは2003年。6mになんなんとする威風堂々たるボディに、パワフルな6.75リッターのV12エンジンを搭載した「ファントム」が発表されたのと機を一にして、特別仕様を好む顧客のために設定された。
そもそも英国でチャールズ・ロールズと、ヘンリー・ロイスが組んでクルマづくりを始めた1900年代初頭は、エンジンとシャシーのみが販売され、顧客は自分で車体架装メーカーを見つけ、好みのデザインを注文していた。それから約100年後に肝いりで始まったビスポークプログラムは、「幅広い選択肢とパーソナライゼーションはロールス・ロイスブランドの真髄であり、独自の顧客サービスのあり方を体現」(ロールス・ロイス)したものとらえることが出来る。
好みの仕様に仕上げるビスポーク
ビスポークとはなにか。車体を好きな色に塗ることも、内装の革やウッドを好きな素材から選ぶこともビスポーク。たとえば、結婚の記念日の納車を前提に配偶者の好きなマニキュアの色に車体を塗ってほしいという注文もあれば、革シートの縫い目に使う糸の色を革と変える「コントラストスティッチング」や、シートの縁の部分のパイピングの色を好きに選ぶのもこの範囲に入る。
「一般的に言って、中東ではオリジナルカラーを作るなどペイントで遊ばれるケースが多いです。一方、日本を含む南~東アジアのお客様はウッドに関する知識が豊富で、英国グッドウッドのウッド工房では特別の注文をお受けしています。特に日本人のお客さまはクラフツマンシップを尊ばれディテールにもこだわられることから、レザー部分への刺繍や、ウッドの象嵌や寄木などの手法を用いた工芸的なビスポークが好まれます」(ロールス・ロイス)
ある日本人は車内で飲料を保管するキャビネットをオーダー。そこに付属するドリンクホルダーとクールボックスを、その顧客が好んでいる缶飲料にぴったりのサイズに仕上げたこともあったそうだ。そのために、日本からその飲料の空き缶をグッドウッドに航空便で送り、スタッフが採寸したとか。
納車ずみの車両でもビスポークができる
ビスポークプログラムは特に日本を含む南東アジア地域で成功を収めている、とロールス・ロイスでは言う。昨年製造されたファントムシリーズの85%が何らかのビスポークオプションを備えていたそうだ。オーダーの方法は、ロールス・ロイス・モーターカーズのディーラーを通して行われ、グッドウッドのビスポークチームがディーラーおよび顧客とやり取りをして仕様を決定する。
「グッドウッドの本社工場に足を運び、コントラストスティッチの色や、シートパイピングなどのディテールにいたるまで細かな仕様について直接ビスポーク担当者と話しあって決められるケースもあります」とロールス・ロイスでは教えてくれた。
すでに納車された車両に何らかのビスポークオプションを施すことも可能。ファントムを購入した後にキッキングプレート(ドアをまたぐ車体の部分に張られた金属板)やヘッドレストを、好みの仕様に変えられる。
デザイナーとやりとりして 発注に6カ月かける?
納期は3カ月からで、デザイナーとのやりとりが多くなればそのぶん時間もかかる。また、完全にワンオフのビスポークになると、「エンジニアリング上の実現可能性や製造工程のアセスメントが必要になります」という。このレベルのビスポークになると、納車までに6カ月以上を要する。
ビスポークには、いろいろな目的がある。ひとつはプレゼントのため、あるいは自分への特別なごほうび。これは注文主の美意識が大きくものをいうため、世界に1台しかない車両が出来上がる。ただし他者と美意識が共有しにくいため、転売となると、やや難しくなってくる。
そのいっぽう、ロールス・ロイス史上有名なモデル(レースカーや有名なオーナーが乗っていたクルマ)を参考に、デザイン部門と相談しながら作ったようなモデルは、他人からも理解されやすく、次のオーナーも見つかりやすい。同時に、そのひとのロールス・ロイスへの理解を表現する手段として、評価も得やすい。これもビスポークのひとつの楽しみかただ。
●ロールス・ロイス・モーター・カーズ横浜(神奈川)
https://www.rolls-roycemotorcars.com/yokohama/ja_JP/showroom.html
●ロールス・ロイス・モーター・カーズ
https://www.rolls-roycemotorcars.com/en_GB/home.html
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています