W&Wの会場は、旧SIHH組と旧バーゼル組に出展エリアが分かれ、その中間に独立系やミドルレンジのメゾンのスペースが設けられた。W&Wがスイスでもっとも影響力のある新作エキシビションになったことは確かだが、今後どのような形態になっていくのかも注視したい。主催者であるW&W財団のPRマネージャーによれば、「まず今回のW&Wを、市内でのイベントも含め成功させることが大切。W&W閉幕後に各メゾンの代表者によるミーティングが行われ、今後の方向性が話し合われる」とのこと。出展の機会を模索しているミドルレンジのブランドに、適切な場所が与えられることにも期待したい。
トレンド的なことにも触れておこう。かつて、ハイエンドウォッチの主要な価値は複雑機構だったが、最近、伝統的な仕上げや、メティエ・ダールと呼ばれる工芸性が重視される傾向にある。今年、特に目に付いたのは、技巧を凝らした文字盤だった。エナメル、彫金、細密画、象嵌(ぞうがん)技法などをレベルアップし、これらを組み合わせるなどして、新しい表現に挑戦した秀作が豊作。例年、文字盤のトレンドカラーが話題となるが、今年の決定打はなく、グリーンもトレンド色から定番化してきたように映った。
筆者が最も気になったトピックといえば、W&W開催前日の3月26日、かねてよりうわさになっていたジャン-クロード・ビバー氏と息子のピエール氏による新ブランド、ビバーの設立とファーストモデルのプロトタイプのお披露目だったかもしれない。1980年代初頭にブランパンを再興して機械式時計の復興をリードし、スウォッチグループを経て、ウブロの再活性化を成功させ、LVMHウォッチプレジデントを務めた氏の業績は、ご存じの方も多いだろう。そのキャリアの集大成と言うべき動きに、注目しない時計関係者がいるだろうか?
ファーストモデルは、三つのゴングで3音階を奏でるカリヨンミニッツリピーターとトゥールビヨンを組み合わせたモデル。複雑さだけでなく、全てのコンポーネンツの見えないところにまで徹底的に仕上げを施すことも表明、究極のものづくりが目指されている。すでに、パーペチュアルカレンダー、クロノグラフ、シンプルな3針のプロジェクトもスタートしているという。5月14日に行われたフィリップスのオークションで、フルチタンのプロトタイプが100万スイスフラン(1億6000万円弱)で落札されたが、ビバーに対する期待の大きさがうかがい知れる。
2023年春のジュネーブを振り返るにつけ、ウォッチメイキングのダイナミズムが改めてよみがえってくる。ハイエンドウォッチの次なるステージへの期待感が高まる一方である。