ウルトラハイエンドウォッチが描く腕時計の未来

3月27日から4月2日まで、新作タイムピースのエキシビション、ウォッチズ&ワンダーズ2023がジュネーブで開催された。同じタイミングで、市内のアトリエやホテルでの新作発表も行われて、ジュネーブは時計一色。パンデミックを乗り越え、時計業界はどこに向かうのか。

Text Yasushi Matsuami

3月27日から4月2日まで、新作タイムピースのエキシビション、ウォッチズ&ワンダーズ2023がジュネーブで開催された。同じタイミングで、市内のアトリエやホテルでの新作発表も行われて、ジュネーブは時計一色。パンデミックを乗り越え、時計業界はどこに向かうのか。

(上段左から)F. P. JOURNE、PATEK PHILIPPE、JAEGER-LECOULTRE(下段左から)LOUIS VUITTON、BIVER、GUCCI
(上段左から)F. P. JOURNE、PATEK PHILIPPE、JAEGER-LECOULTRE
(下段左から)LOUIS VUITTON、BIVER、GUCCI。

新作ウォッチに沸くジュネーブに、じつに4年ぶりに降り立った。コロナ禍の沈静化を受け社会経済活動が徐々に正常化しつつある日本とは全く異なる状況が、そこに展開されていた。ジュネーブでは、パンデミックはすでに過去の出来事に過ぎなかった‼ ウォッチズ&ワンダーズ(以下W&W)会場のパレクスポは、人と活気にあふれ返り、もちろんマスクなど影も形もなかった。

100年以上の歴史を誇った世界最大の新作時計宝飾展示会バーゼルワールドが、2019年の開催を最後にあえなく消滅。リシュモングループを中心とするエキシビション旧SIHHに、バーゼルを離脱したパテック フィリップやロレックスなどの主要ブランドが合流し、ウォッチズ&ワンダーズとして装いも新たに華々しくスタートを切る……はずだったが、パンデミックの影響で、2020、21年はオンラインによるデジタル開催。22年はオンラインとリアルの2本立てで実施されたが、ヨーロッパからの来場者メインで、アジアからの参加者はごく限られた。そして今年、初めて完全リアル開催が実現。昨年末には、このエキシビションを運営する新財団が、リシュモン、パテック、ロレックスなどによって設立され、より体制を整えての開催となった。

独立系ブランドなどの受け入れも増やし、全48ブランドの規模に。会期のラスト2日間は一般向けに有料開放された。総来場者数4万3000人は、コロナ禍前に匹敵する。イン ザシティと銘打った、会場外でのさまざまなイベントも企画され、ジュネーブ市と一体となって、時計イベントを盛り上げようとするスタンスも見てとれた。

このほかにも、ミドルレンジの約40ブランドが集結したエキシビション、タイム トゥ ウォッチズ、独立時計師アカデミーによるマスターズ オブオルロジェ、市内のアトリエやホテルでの新作発表も多数。ジュネーブを改めてタイムピースの中心地・発信地にしていこうとする意欲が、そこここにみなぎっていた。

コロナ禍の最中から、腕時計を取り巻く環境は大きく変わった。ハイエンドなタイムピースへの注目度が急上昇し、時計を投資対象とする動きも顕在化、欲しい時計が容易には買えない状況も続く。この流れが、各ブランドに上げ潮ムードをもたらしているのは事実だろう。よりラグジュアリーに、よりハイクオリティーに、そしてそれに見合う高額化も進む。誰もが買える時計ではなく、顔が見えるスペシャルな顧客に向けたクリエーションや、顧客の希望に沿ったカスタマイズも進んでいる。

ここでは購入はおろか、目にすることもままならいような、希少性の高いウルトラハイエンドな新作を中心に並べた。ラグジュアリータイムピースの最前線はここまできているということをお知らせしたかったからだ。こうした最上位モデルで培われたノウハウが、徐々に手の届くモデルに降りてくることもままある。今、ウォッチメイキング全体が、かつてないレベルに到達し、限界を押し上げているのを感じないではいられない。

今回のページ構成について少々説明しておくと、最初のカルティエからパルミジャーニ・フルリエまでがW&W参加ブランド、F.P.ジュルヌからダミアーニまでがジュネーブのホテルやブティック、マニュファクチュールなどで発表されたもの、最終ページにはジュネーブ以外で独自に発表されたものを集めた。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。