変わらざるウルトラアナログな世界

2002年のオープン以来、日本における高級時計シーンを牽引してきたリテール、アワーグラス銀座店。社長の桃井敦さんに、この20年余りの時計をめぐる状況の変化を尋ねると「もう、激変しましたよ」という言葉が返ってきた。一方、かたくなに変化を拒んでいる部分もあるという。そこから見える腕時計の未来像。

Photo Photo Masahiro Goda  Text Yasushi Matsuami

2002年のオープン以来、日本における高級時計シーンを牽引してきたリテール、アワーグラス銀座店。社長の桃井敦さんに、この20年余りの時計をめぐる状況の変化を尋ねると「もう、激変しましたよ」という言葉が返ってきた。一方、かたくなに変化を拒んでいる部分もあるという。そこから見える腕時計の未来像。

こうした伝統あるメジャーブランドの“価値”を軸としながら、独立系マイクロブランドの台頭も無視できなくなってきたという。それは将来に向けての変化かもしれない。「インディーズというのは、超絶時計好きで、なおかつある程度いろいろ買ってしまった方々が、他人と違うものを求めて最後にたどり着くところで、全然マジョリティではなかった。それが、この10年でガラッと変わってきた。メジャーなラグジュアリーブランドの時計がなかなか店頭に並ばなくなって、他に買うに値するものを探し始めた人がインディーズに向かっている。かつてはジュウ渓谷で何が行われているのか、ほとんど情報がなく、関係者しか知らなかった。それが今は誰でも情報にアクセスできるし、エンドユーザーが普通に独立ブランドにコンタクトして、インポーターもディストリビューターも介さず発注できてしまう。それが全てではないですが、独立系が無視できない存在になりつつあるのは確かだし、これまでのリテールの在り方も変わる必要があるでしょう。我々も独立系のローラン・フェリエ、レジェップ・レジェピ、来年から時計業界のレジェンドであるジャン-クロード・ビバーさんの個人ブランドも扱うことが決まりました」

腕時計の機能やデザインの未来の可能性を、桃井さんはどう考えているのだろうか?「機能やデザインは、ありとあらゆるものが出尽くしたと思います。新たな可能性が多少あるとしたら、ギミックというか、奇をてらったもの。車もそうでしょ?

フェラーリにしろマクラーレンにしろブガッティにしろ、車だってやり尽くして、今後どう発展するかといったら、ハイブリッドや電気自動車。時計も今後、AIがデザインした近未来的なモデルも出てくるでしょう。でも全然惹かれない。そこにはノスタルジーも何もない。高級時計というのは時代錯誤なウルトラアナログな世界。ゼンマイを巻かなきゃ動かないとか、何年かに一度オーバーホールしなきゃいけないとか、でもそれが良いわけじゃないですか?

だから僕的には、これ以上発展しなくていいと思っています。する必要もない。ハイテクを駆使したものを否定しませんが、肯定もしない。別カテゴリーのものですよ。我々は油臭いアナログな世界で良いんだと思っています」

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※『Nile’s NILE』2023年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。