こうした伝統あるメジャーブランドの“価値”を軸としながら、独立系マイクロブランドの台頭も無視できなくなってきたという。それは将来に向けての変化かもしれない。「インディーズというのは、超絶時計好きで、なおかつある程度いろいろ買ってしまった方々が、他人と違うものを求めて最後にたどり着くところで、全然マジョリティではなかった。それが、この10年でガラッと変わってきた。メジャーなラグジュアリーブランドの時計がなかなか店頭に並ばなくなって、他に買うに値するものを探し始めた人がインディーズに向かっている。かつてはジュウ渓谷で何が行われているのか、ほとんど情報がなく、関係者しか知らなかった。それが今は誰でも情報にアクセスできるし、エンドユーザーが普通に独立ブランドにコンタクトして、インポーターもディストリビューターも介さず発注できてしまう。それが全てではないですが、独立系が無視できない存在になりつつあるのは確かだし、これまでのリテールの在り方も変わる必要があるでしょう。我々も独立系のローラン・フェリエ、レジェップ・レジェピ、来年から時計業界のレジェンドであるジャン-クロード・ビバーさんの個人ブランドも扱うことが決まりました」
腕時計の機能やデザインの未来の可能性を、桃井さんはどう考えているのだろうか?「機能やデザインは、ありとあらゆるものが出尽くしたと思います。新たな可能性が多少あるとしたら、ギミックというか、奇をてらったもの。車もそうでしょ?
フェラーリにしろマクラーレンにしろブガッティにしろ、車だってやり尽くして、今後どう発展するかといったら、ハイブリッドや電気自動車。時計も今後、AIがデザインした近未来的なモデルも出てくるでしょう。でも全然惹かれない。そこにはノスタルジーも何もない。高級時計というのは時代錯誤なウルトラアナログな世界。ゼンマイを巻かなきゃ動かないとか、何年かに一度オーバーホールしなきゃいけないとか、でもそれが良いわけじゃないですか?
だから僕的には、これ以上発展しなくていいと思っています。する必要もない。ハイテクを駆使したものを否定しませんが、肯定もしない。別カテゴリーのものですよ。我々は油臭いアナログな世界で良いんだと思っています」
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※『Nile’s NILE』2023年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています