多様性が拓く未来の可能性

時計業界での長いキャリアに加え、該博な知識と穏やかな人柄でリスペクトされてきた飛田直哉さんが、自身の時計ブランドを立ち上げたのは2018年のこと。時計の歴史に向き合う一方、現在の時計業界の動向やトレンドにも広く目を向け、自身のウォッチメイキングに反映させている。ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG)2023の審査員も務めた飛田さんに、腕時計の可能性を聞く。

Photo Photo Masahiro Goda  Text Yasushi Matsuami

時計業界での長いキャリアに加え、該博な知識と穏やかな人柄でリスペクトされてきた飛田直哉さんが、自身の時計ブランドを立ち上げたのは2018年のこと。時計の歴史に向き合う一方、現在の時計業界の動向やトレンドにも広く目を向け、自身のウォッチメイキングに反映させている。ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG)2023の審査員も務めた飛田さんに、腕時計の可能性を聞く。

MINGに象徴されるように、スイス以外でのウォッチメイキングも間違いなく広がっているという。「たとえば、カンボジアに国が援助して、時計修理学校ができて、スイスの技術援助も受けながらトゥールビヨン腕時計を完成させました。韓国、中国にも独立時計師として活動している人が出てきているし、オーストラリア、アメリカ、北欧、東欧……もちろん日本の若手でも自分で作っている人が増えています」

マイクロブランドの多様化も顕著だという。「ある意味、マックス・ブッサー&フレンズも、ジャン-クロード・ビバーも広義のマイクロブランドでしょうし、投資家とエンジニアが共同で経営しているアーミン・シュトロームも新しいブランドの形を提示している。そのあたりは別格として、たとえば10万円前後をボリュームゾーンとするフランスのバルチックだったり。マニアックなディテールを押さえまくった時計ですが、その先駆けとなったのが、ファーラン・マリ。最初はクオーツ、次は機械式、そして11月に予定されていながら延期となったオンリーウォッチには、パーペチュアルカレンダーを出品し、次の段階へ行こうしています。ファーラン・マリ以降、そのフォロワーが増え、正直このセグメントで勝負するのは大変でしょうが。製造技術の進歩だけでなく、販売ルートも含め、いろんなことが変わり、より手の込んだことができるようになったり、高額でも売れるようになったり、今、本当に多様化が進んでいる。だから、まだまだ可能性があると思いますね」

NH WATCHも、ある意味、多様化するマイクロブランドの一角を占める存在だが……。「ウチは重箱の隅をつつくようなデザインしかやらないので(笑)。何人かのお客様と話していると、機械式時計って、数少ない身に着けることができるペットみたいな存在だと。ペットって、ある程度面倒を見なきゃならない。機械式時計も、ある程度ケアしなきゃならないですが、他の身に着けるものに比べると、面倒くささが少ない。私はクラシックスーツも革靴も好きですが、毎日それを身に着ける人は減ってるじゃないですか。でも機械式時計の場合、ジャージでもニットにスニーカーでも、手元に本格的なクラシックモデルを着けるっていう選択肢はあり得ますから。ペット需要も高まっているみたいだし、そういう時計を作る人間がいてもいいですよね」

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※『Nile’s NILE』2023年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。