繊細、多面的、シンプル

フランス料理ならではの構築的な視点で、日本の食材にアプローチする「エスキス」のリオネル・ベカ氏。根底には、食材とゲストに対する愛があふれている。作り上げる料理は理知的で繊細、それでいて胃袋がホッと喜ぶ。構造は複雑でありながら食べた印象はシンプル、そんなスタイルを貫く。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

フランス料理ならではの構築的な視点で、日本の食材にアプローチする「エスキス」のリオネル・ベカ氏。根底には、食材とゲストに対する愛があふれている。作り上げる料理は理知的で繊細、それでいて胃袋がホッと喜ぶ。構造は複雑でありながら食べた印象はシンプル、そんなスタイルを貫く。

パレットナイフで線を崩す

次ページで紹介しているのは、ヤリイカの前菜です。ヤリイカをソテーし、シトロンコンフィやパセリなどの入ったバターで香りをまとわせます。コゴミなどの山菜とともに、ブロッコリーのピュレの上に盛りつけました。

泡状のソースは、煮詰めたイカの出汁がベースで、バラした塩タラコで濃度をつけてこし、リモンチェッロと発酵バターで風味づけ。ほんのりとしたコク、透明感のある風味が特徴です。

イカと山菜は味の相性が良いだけでなく、どちらも自然のもの。また、イカは海底の、山菜は土の中のパワーを蓄えているので、食べると非常に生命力を感じる。そうした共通項のある食材を組み合わせました。

エスキス、パレットナイフ

皿には、イカ墨のソースで描いた線をパレットナイフで崩した、ちょっと不思議な雰囲気の絵を描いています。イカは、逃げる時に墨を吐きます。そのイメージを表現しました。食べるとは命をいただくこと。そうした思いで描いています。

食材の「陰」の世界を写真で捉える

もともと写真は、見るのも撮るのも好きです。愛用しているのは、富士フイルムのミラーレス一眼X-T3。画像データはブルートゥースでスマホと共有できるので、インスタグラムにもアップしています。繊細なニュアンスも捉えてくれるので、大きくプリントしても大丈夫です。

エスキス、愛用のカメラX-T3

最近は、テーマを設け、より時間をかけて写真に取り組んでいます。人生は一度きり。やりたいことをやらなければ。それで、じっくりと自分なりの表現に取り組んでみようと思ったのです。

今追っているのは、食材の「陰」の世界。例えば割烹のカウンターには美しく食材が並べられていますが、それとは対照的な世界。生き物としての食材が時折見せる、生々しい表情を追っています。

パッと見て奇麗と思わないかもしれない。でも、普段から食材を扱う人間として、一度そこを正面から追ってみたかった。秋にはこのテーマで私が撮影した写真を集め、個展を開く予定です。

フロマージュブランは私の相棒

フロマージュブランは、私の料理人人生を通して常にともにある食材です。というのは、私はフランス料理の料理人ですが、バターやクリームがあまり好きではない。そこで活躍するのが、フロマージュブラン。クリームの代わりにソースに濃度をつけることもでき、ヘルシーです。

エスキス、フロマージュブラン

フロマージュブランは水きりすることで、料理への活用方法が格段に広がります。例えば今回の魚料理(次ページ)は、フィレにおろしたサワラの切り身を1日かけて脱水シートで包み水分を抜き、その後、水きりしたフロマージュブランで2日間マリネしました。こうすることで、味噌漬けにしたように、旨みが増すのです。

また、水きりで出た水分(乳漿:にゅうしょう)にも素晴らしい活用法が。菜の花を乳漿でマリネしてからさっと蒸し煮にすると、本来の風味が強調され、奥行きのある仕上がりになるのです。面白いでしょう?
フロマージュブランはヘルシーなだけでなく、効能も優れているのです。

1 2
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。