お茶と、その根底にある禅の思想が、中村氏と招福楼の哲学を形作っている。中村氏は、京都の名刹(めいさつ)、妙心寺にて学生時代住み込みの小僧として過ごし、その後得度して修行した経験の持ち主。家業に戻ってからも師との交流を続け、また茶の湯を身につけた。料理屋の主人でありながら、文化人として日々、客人をもてなす。
「“料理人をめざして職人になるな。文化人になれ”というのは、父の教えなんです」と中村氏。父親の秀太良氏は、文化の粋が集まる現在の招福楼を作り上げた人物。
「建築がわかる、陶芸もわかる、花も生けられる、食材もわかる、料理もわかる。それぞれ専門家がいるけど、全部を知るのが文化人。料理店の主人はすべて扱っているのだから、すべて勉強しなくてはいけません」
これが、招福楼を形作っている思想だ。一歩足を踏み入れると別世界が広がる。料理もまた、その世界の一部。料理を食べることで、季節ごと、文化ごといただく。そんな体験を提供する店である。
中村成実
1955年滋賀県生まれ。招福楼主人、中村秀太良氏の次男として生まれる。学生時代は妙心寺霊雲院にて小僧として過ごし、その後得度。80年より家業に戻り、92年より4代目を継ぐ。
●招福楼 東京店
東京都千代田区丸の内2-4-1
丸ビル36F
TEL 03-3240-0003
www.shofukuro.jp
※『Nile’s NILE』2019年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています